地震によるRC構造物の "損傷過程" を高精度で予測

―世界初、RCの耐震解析手法における 「4方向ひび割れモデル」 を開発―
 
【平成11年7月7日】大成建設株式会社


 大成建設(株)(社長 ・ 平島 治)は東京大学 ・ 前川宏一教授と共同で、鉄筋コンクリート(RC)構造物が巨大地震によって多方向から繰り返し荷重を受ける場合に、ひび割れが発生してから崩壊にいたるまでの複雑な過程を高精度で予測できる "鉄筋コンクリートモデル" を開発しました。この開発の特徴は、発生するひび割れを4方向まで同時に考慮してシミュレートできる新しい鉄筋コンクリートモデルの確立とその検証です。このような 「4方向ひび割れモデル」 は、過去には例がなく、海外の研究者や専門家からも高い評価を受けています。


 阪神淡路大震災以後、耐震設計法が見直されてきました。加えて、土木 ・ 建築分野における設計手法は、性能設計に移行しつつあります。こうした中で、巨大地震によって構造物がどのように変形し、どのような損傷を受けるのかを、より精度よくかつ定量的に予測できる耐震性能評価が求められていました。
 LNG地下タンクや高橋脚など、平板や曲面板で組み立てられた中空断面のRC構造物に対する3次元耐震解析において、従来は、ひび割れのモデルが1〜2方向までであるため、想定できる荷重状態が限られ、性能判定の幅も限定されたものでした。これに対して今回、新しく "4方向のひび割れを有する鉄筋コンクリートモデル" を完成させました。
 前川教授のグループが開発してきた3次元コンクリート非線形解析プログラム 「COM3」 にこの4方向モデルを組み込むことにより、解析精度の向上と適用範囲の大幅な拡大が実現しました。このプログラムの信頼性は、地震を想定した載荷実験結果との比較によって実証されています。
 計算プログラムの開発にあたっては、これまでのモデルを再整理 ・ 統合して、十分な精度を確保できる範囲で計算方法を極力簡略化することにより、今まで時間がかかっていた3次元計算が短縮化できました。これにより耐震設計実務への適用が可能になりました。

 今回の開発による耐震解析の精度向上により、RC構造物の安全性を十分に確保しながら鉄筋量の低減を図ることができるため、従来設計に比べて建設費の適切なコストダウンが可能になります。従って、今後、LNG地下タンクをはじめ、吊り橋や斜長橋の主塔、原子力格納施設など大型鉄筋コンクリート構造物の耐震解析に本プログラムを積極的に適用して、より合理的な耐震設計を目指します。
 



   「4方向ひび割れモデル」 の追加説明


・ 巨大地震:   
  兵庫県南部地震のように1000〜2000年に一度発生するような発生確率が極めて低い地震動である。設計的には、 "レベル2地震動" と呼ばれ、この地震による対象構造物の耐震性能照査としては、多少の損傷は許すものの、構造物全体が崩壊しないように設計することが要求される。
 
・ 多方向からの繰返し荷重: 
  地震により構造物に働く荷重は、南北方向からのみの繰返し荷重とは限らず、南北東西のいろいろの方向から繰返しの荷重が働く。従って、地震による荷重計算としては、(1)繰返し荷重と(2)多方向からの荷重を考慮する必要がある。
 
・損傷過程を予測する必要性: 
  阪神大震災以降、巨大地震により 「RC構造物が、崩壊しないか、損傷はどの程度か、どの程度変形するか、ひび割れはどの程度発生するか・・」 を設計の一環として確かめることになった。橋脚のような柱部材では、その予測方法は、それ程困難でなく、現在では一般的に行われている。しかし、地下タンクや中空断面の橋脚では、その損傷過程を予測するのは極めて困難である。
 
・線形解析(弾性解析): 
  通常の地震(レベル1地震動:構造物の耐用期間内に数回発生するような地震)では、設計上、構造物の損傷を許さない。そのため、この地震による耐震設計では、構造物が弾性範囲内でおさまるようにする。弾性とは、構造物に作用する荷重と、これによる変形との関係が比例関係にある状態を言い、荷重を取り除くと変形はゼロにもどる性質がある。荷重と変形の関係が比例関係にあるために、これらの解析法を 「線形解析」 と呼ぶ。
 
・ 非線形解析(弾塑性解析): 
  巨大地震(レベル2地震動)による耐震設計では、RC構造物の一部は損傷して、コンクリ−トにはひび割れが発生し、鉄筋の一部は塑性変形する状態になる。このような解析を弾塑性解析と呼ぶ。塑性とは、荷重と変形の関係が比例関係でなくなり、わずかな荷重で変形が大きく進行する状態で、荷重を更に上げると構造物が破壊する。比例関係でなくなるので、 「非線形解析」 と呼ばれる。
 
・1〜2方向ひび割れモデル: 
  RC構造物の非線形解析において、ひび割れを1〜2方向考慮できる鉄筋コンクリ−トのモデル。1方向ひび割れは、一方向から、交番繰返しでない荷重がRCの梁や柱に作用するときに発生するひび割れ。2方向ひび割れは、これが交番繰返しの荷重となった時に、発生するひび割れ。2方向ひび割れの典型的なものは、耐震壁の面内に繰返しせん断力が作用した時の、交差する斜めひび割れである。
(交番繰返し…押しと引きの二つの力が作用する場合をいう)
 
・3〜4方向ひび割れモデル: 
  RC構造物の非線形解析において、ひび割れを3〜4方向考慮できる鉄筋コンクリ−トのモデル。このひび割れは、一般的に構造物に働く荷重が一方向からのみでなく、多方向から作用するときに発生する。今までは、この多方向からの作用荷重に対して、従来の1〜2方向ひび割れモデルを疑似的に適用してきたが、今回、3〜4方向ひび割れモデルを開発したことにより、解析精度の向上と適用範囲の拡大が可能となった。
 




東京大学 前川宏一教授 略歴

 
1957年4月生,42才
1980年 : 東京大学土木工学科卒業
1982年 : 東京大学土木工学科修士課程修了
1985年 : 東京大学土木工学科博士課程修了
1985〜6年 : 東京大学土木工学科助手
1986〜96年 : 東京大学土木工学科助教授
(1990〜2年 : アジア工科大学に助教授として派遣)
1996年〜 : 東京大学大学院工学系研究科 社会基盤工学専攻教授(現職)
 
専門:
1) 鉄筋コンクリートの構成モデル
2) 鉄筋コンクリートの動的非線形解析
3) 鉄筋コンクリートの耐久性設計と耐久性解析
4) 自己充填ハイパフォーマンスコンクリートの設計法
 
委員会活動:
土木学会,日本コンクリート工学協会等多数
 
受賞歴&業績
昭和59年度 土木学会論文奨励賞
昭和59年度 日本コンクリート工学協会賞
平成 5 年度 土木学会論文賞
平成 6 年度 土木学会技術開発賞
平成 7 年度 土木学会吉田賞
平成 8 年度 土木学会論文賞
平成 9 年度 日本コンクリート工学協会論文賞