「CS推進で信頼を勝ち得る企業に」

 
 大成建設株式会社
 代表取締役社長  平島 治

 四月の就任以来、全国の取引先や支店、現場を精力的に回っており、東京 の本社にはいないことが多いそうだ。
 公共事業予算の削減方針に加え、民間需要も景気の本格回復の兆しが見えず、建設業界には厳しい状況が続いている。「終戦直後の復旧、復興から成熟の時代を経て、これまでのような急成長はもうない。これが普通と考え、今後一層のコストダウンを進める努力をしていかないと」と語る。
 受注産業としてCS(顧客満足)の推進を強調する。「いいものを安く、早く発注者に提供すること。一つの建物を造るにしても、工法や材料をどうするかなど様々な組み合わせがある。その中でお客を満足させるものを提供できるかどうかが大事」。大手ゼネコンの間では、技術力、建設コストに大きな差はない。地道に顧客を満足させる仕事を仕上げ、信頼を勝ち得ていくしかない、という。「トップはもちろん、営業マン、現場の人まで社員全員が、まず人間としてお客に信頼されるようにならなければ」と力を込める。
 「一般のメーカーみたいな画期的な新技術はそう出てこない」と語るが、良いものを安く、早く造るための技術力の向上は永遠の課題だ。石川島播磨重工業と共同開発した「球体シールド工法」。シールドに内蔵した球体が推進方向を自在に変えられるため、これまで別々に掘らなければならなかったタテ杭・ヨコ杭を一台のシールドで連続して掘ることができる。工期の短さ、省スペース、残土の少なさにおいて画期的なもので、今年度の恩賜発明賞を受賞した。土木技術としては始めてという。
 「パルコン」シリーズなど早くから手がけていた住宅部門にも力をいれて いきたい、という。「国民みんながもっといい住環境に住めるようにしたいという理念があるんです。それと、人がいる限り住宅というのは必ず需要がありますからね」。「パルコン」やツーバイフォーの「パルウッド」に輸入住宅を合わせた住宅部門の受注高(昨年度)は一千億円に達する。「パルウッド」には、オリジナルの空気循環システムを取り入れ、これまで以上に高い気密性、断熱性を実現した「空間王」が、新たにラインアップに加わった。
 歯医者の一人息子とて育った。「そのまま後を継ぐってこともできたのでしょうけど、あまり面白そうに見えなかった。工作とか物を作るのは好きでしたからね」。東大の建築学科を卒業し、建築技術者の道を選んだ。
 入社後は、東京オリンピック開催に合わせ建てられたホテルニューオータニ本館の建設を担当したことが印象深いという。工期十七カ月の突貫工事。鉄骨柔構造などの最新技術を導入、一千室分の浴室バスユニットも新たに開発して工期を短縮した。地下三階、地上十七階、高さ七十二メートルは当時日本一。十年後には、地上四十階のニューオータニ・タワー館の建設を工事長として指揮することになる。
 その後、広島、大阪の支店長としての営業を通じて人脈を広げた。副社長だった阪神大震災の時には、海外視察中の中国から急きょ帰国し、地震の翌々日には救援物資を持って現地に駆けつけ、得意先を回るという行動力も発揮。「社員も二ヵ月も三ヶ月も泊り込んで復旧工事に当たったんです。本当に頭の下がる思いがしました」
 六十五歳。趣味は、ヨーロッパから国内まで歴史のあるところを訪ね歩くこと。合計八年あまりを過ごした大阪周辺の奈良、京都の名所旧跡はほとんど回った。「古い建物を見るのも勉強になるし、人間の有り様とか色々考えさせられる」。読書も好きで、司馬遼太郎の本はほとんど読破したそうだ。