週刊誌コラム

週刊新潮「タワークレーン」

在原業平 岩倉具視 学習院旧正門

 東京メトロ副都心線の西早稲田駅に近い諏訪神社(新宿区高田馬場一−一二−六)は平安時代創建と伝えられる古社だけに在原業平 (ありわらのなりひら) にまつわる伝説が残っている。

 業平は平城天皇の皇孫で、『伊勢物語』の主人公に擬せられ、東下りの説話で親しまれている。

 名にし負わばいざ (こと) 問わん都鳥 わが思う人はありやなしやと

 業平の作として有名な和歌である。<隅田川に群れ飛ぶ都鳥よ、都の名を持つのなら都のことを訊ねたい、都(京都)に住む私の恋人は無事でいるのだろうか>。都鳥はユリカモメの雅称。その業平が諏訪の森で道に迷って妻と離ればなれになり、一夜明けてみれば同じ場所にいたという奇遇譚が伝わり、この森には思いの森、恋の森という別名もあるというのである。

 諏訪神社の別当寺 (べっとうじ) (江戸時代、神社に付属して置かれた寺院)である玄国寺 (げんこくじ) 庫裏 (くり) には明治の元勲である岩倉具視 (いわくらともみ) 邸の書院が移築保存されている。明治初年らしく和洋折衷だが、堂々とした和風建築に洋風のシャンデリアがなんの異和感も与えないという。大正十五年(一九二六)ころ馬場先門にあった岩倉邸の一部をそっくり移築した。開化期を偲ばせる貴重な文化遺産である。

 諏訪神社や玄国寺の筋向いに当たる明治通りの東側には学習院女子大学(新宿区戸山三−二〇−一)の校地が広がっているが、その古風な校門が明治十年(一八七七)神田錦町に創設された華族学校(現・学習院)の正門で、国指定の重要文化財である。

 赤茶色に塗った門柱は透かしの唐草文様 (からくさもんよう) 。扉は洋風鉄扉の形式だが、唐草文様、蕨手 (わらびて) 文様の日本調。いずれも川口市で鋳造された。

 このコラムは今回で一旦休載致します。永年のご愛読ありがとうございました。

(掲載号:04月01日号)