週刊誌コラム

週刊新潮「タワークレーン」

根岸の 庚申塚 円光寺

 JR鶯谷駅北口から言問通りへ出ると、そこから北へ尾竹橋通りが延びている。その東側に、正岡子規の「雀より鶯多き根岸哉」の句碑のある台東区立根岸小学校が建っている。

 校舎に沿った歩道のわきには、寛文(一六六一−七三)、元禄(一六八八−一七〇四)の年号が刻んである青面金剛 (しょうめんこんごう) や見ざる・聞かざる・言わざるの三猿が浮き彫りになっている庚申塔三基と、堂が一列に並んでいる。一画はきれいに清掃され、それぞれに季節の花が供えられていて、一目で地元に大切にされていることが分かる。

 この庚申塔群のため、古くは付近を庚申塚と呼んでいた。今は若い三代目の松が植わっている根岸の名勝・御行 (おぎょう) の松がある時雨岡の所在地を『江戸名所図会』は「同所庚申塚といへるより三四丁 (うしとら) の方、小川に () うてあり」と記している。同所は根岸、艮は北東の方角、小川は今は暗渠となった音無川のことである。

 その庚申塚の根岸小学校北端の細い道を東へ少し行った左手、根岸三−一一−四に円光寺が建っている。かつては「藤寺」といわれた藤の花の名所だった。

 「根岸の里にあり。済家 (さいか) の禅林にして、釈迦如来を本尊とす。当寺庭中に紫藤ありて、一奇観たり」

 『江戸名所図会』の記述で、藤見客が訪れている挿絵も載っていて「世俗藤寺といふ。庭中架を (めぐ) らして、是を (まと) はしむ、 (えだ) の長さ三四尺に充て、花色最艶美なり」の書き込みがある。同書より約十年前の文政十年に出版された『江戸名所花暦』にも亀戸天神などと共に円光寺の藤が「遊客酒をくみかはして、いと興するなり」と記載されている。

 今、その景観は失われたが、境内に小規模ながら藤棚があって昔の面影をかすかに偲ばせている。

(掲載号:03月11日号)