週刊誌コラム
週刊新潮「タワークレーン」
向きを 変えた 地蔵像
東京メトロ日比谷線三ノ輪駅を出ると、昭和通り西側に台東区立根岸図書館がある。その裏通りの根岸五−一八−五に建っている薬王寺には、「背面地蔵」という名の石のお地蔵さんが祀られている。
この辺りは昭和四十年七月まで三ノ輪町だったところで明治の『東京名所図会』に、「薬王寺は三之輪町十二番地に在り。・・・・・・當寺には有名なる
「背面」は「うしろむき」または「せむき」と読んでいるが、寺の掲示には「うしろむき」とある。造立は江戸時代初期の正保四年(一六四七)と伝えられ、延命、子育てにご利益があるそうである。
名前の由来は——
十八世紀半ば過ぎの明和のころまで、地蔵像は寺の西側を通る当時の奥州街道に面して建っていた。ところが現在の昭和通りに当たる新街道が寺の東側、地蔵像の後ろの方に開通した。人々は多く新道を通るようになったので、像は後ろ姿ばかりを人目にさらすようになってしまった。そこで寺では、像を新道・東向きに置き直した。
するとその夜、地蔵尊が住職の夢枕に立って「汝、いかなれば我が面を東に向かわしめたるや。そもこの寺の西辺は古陸奥への駅道なり。我はその道に臨み西に向かい立ちたるなり」と告げた。住職はすぐ像の向きを元に戻そうと石工を呼んだところ、石工も同じような夢を見たという。
参詣人は「昨日東向きに立っていたお地蔵さまが、今日は西に向いている」と驚いた。これが評判となって、背面地蔵の名が江戸中に知れ渡るようになったという。
この地蔵像の他、同寺には本堂へ上る階段横に南朝年号正平七年(一三五二)銘の板碑がある。
(掲載号:01月14日号)
