週刊誌コラム

週刊新潮「タワークレーン」

新宿・百人町 皆中稲荷神社 百人隊行列

 新宿といえば超高層ビルの立ち並ぶ新都心地区や繁華な商店街を思い浮かべがちだが、古跡や伝説に富んだ歴史遺産の街でもある。

 JR新宿駅のすぐ隣、JR山手線の新大久保駅で降りて改札口を出ると賑やかな大久保通りが東西に走っている。大久保通りを西へニ、三百メートルも歩くと中央線の大久保駅である。ゆっくり歩いて五分もかからない。新大久保駅も大久保駅も新宿区百人町 (ひゃくにんちょう) 一丁目で、同じ町内になる。

 百人町という町名も珍しいが、江戸時代、このあたりが幕府直属の伊賀組同心鉄砲百人隊の拝領屋敷だったというれっきとした由来にもとづいている。新大久保駅のすぐ西には、鉄砲百人隊の信仰を集めた皆中稲荷 (かいちゅういなり) 神社がある。

 その昔、百人隊の武士の一人が鉄砲の必中を懸命に祈願すると、その夜お稲荷さまが枕元に立ち、勇気百倍した武士が翌朝鉄砲を試射すると百発百中だった。ここを信心すれば鉄砲が皆 (あた) ると言い広められ、近隣の幕臣たちもその霊験を尊んだため皆中稲荷神社と呼ばれるようになった。興味深いのは神社の細長い敷地で、入口は幅十メートルほどだが奥行きは百メートル近くもある。江戸時代の組屋敷の地割がそっくり残されたからで、時代が変わった現代では、宝くじやサッカーくじの必勝を祈願する絵馬がズラリと境内に奉納されている。

 神社の氏子には百人隊の武士の子孫もいて、貴重な伝統を守ろうと、昭和三十六年から隔年(西暦では奇数年)に往時の武装に身を固め古銃を携えた百人隊行列が皆中稲荷神社をスタート地点とし区内の要所要所で古銃の一斉発射を披露する行事(新宿区登録無形民俗文化財)を開催しており、今ではこれを楽しみにする都民も増えて、テレビニュースなどにもよく取り上げられている。

(掲載号:11月26日号)