週刊誌コラム

週刊新潮「タワークレーン」

本牧亭 の灯は 消えず

 安藤鶴夫の『巷談本牧亭』は、講談と都内唯一のその定席への応援歌だった。同書の「あとがき」で、彼は「本牧亭は、その後、少しずつお客さんが殖えてはきているが、講談の運命が心配なことには変りがないようだ。……

 いちど、本牧亭にもお出掛け下さい」と書いている。

 昭和三十八年のことである。上野広小路の西側の横丁、旧上野北大門町・現上野二丁目にあった本牧亭は、一階が日本料理店や将棋クラブで、二階が畳敷きの寄席だった。いわば多角経営で講談定席の維持に努めていた。この形は昭和四十七年、ビルに改築されてからも変わらなかった。

 だが、時代の波は厳しかった。安藤鶴夫が危惧していたように、平成二年一月、遂に本牧亭は閉鎖され、現在、跡地はパチンコのホールになっている。

 ただ、本牧亭は全く消滅したわけでもなかった。『巷談本牧亭』当時の席亭石井英子さんの後継者が場所を変えて本牧亭の灯を守り続けている。

 平成十四年からは、台東区立黒門小学校の南側、上野一−十一−九のイマスサニービル一階で日本料理本牧亭(電話〇三−三八三三−六一三八)を営業しながら、毎月の第二土・日曜日に「黒門町本牧亭講談昼席」と銘打った公演を同所で開催している。上野一丁目はかつての西黒門町で、JR御徒町、東京メトロ銀座線上野広小路、千代田線湯島、地下鉄大江戸線上野御徒町が最寄り駅である。

 これとは別に、毎土曜日夜に講談を酒と料理で楽しむ「黒門町土曜講談会」もある。また中央区日本橋三丁目のお江戸日本橋亭で、月一回「日本橋本牧亭」という講談または落語の会を行っている。

 今の“席亭”は、石井英子さんの長女で『巷談本牧亭』に婚約中と書かれていた清水孝子さんである。

(掲載号:07月09日号)