週刊誌コラム

週刊新潮「タワークレーン」

鳥の名の都は 江戸

 夕暮れに眺め見渡す(見飽かぬ)隅田川 月に風情を待乳山 帆あげた(掛けた)船が見ゆるぞえ アレ鳥が鳴く鳥の名の都に名所があるわいな

 夕暮れの隅田川の情景を歌った端唄の名曲「夕暮」である。だが近年、この歌詞の最後のほうの「鳥の名の」を「鳥の名も」と間違って歌われたり、記載されることが多い。

 木村菊太郎著『江戸小唄』(演劇出版社)によると、この唄は、文化文政時代の名優五代目松本幸四郎が文政四年(一八二一)に芝居の下座音楽として使ったのが最初とある。いずれにしろ江戸時代に作詞された唄に違いないし、月の名所待乳山も出てくる。隅田川が江戸の名所であると歌っている唄である。

 それで同書では「鳥の名の都」と記載し、著者は、歌沢能六斎編『花畦一夕話(はうたひとよがたり)』の序に「鳥が鳴く鳥の名の、ここぞ都の浅草地内」とあることを挙げ「鳥の名の都」は江戸を指すと考証している。

 確かに、その前の「鳥が鳴く」は(あずま)の枕詞であり、「鳥の名も」としたら唄のつじつまが合わなくなる。江戸時代、江戸は東都とか江都といっても、単に都とはいわない。修飾語なしの都は京都に他ならない。仮にそれでも「鳥の名も」が正しいとすると、江戸の名所・隅田川を歌っているのに突然京都が出てくることになる。この都を敢えて江戸としてみても、江戸にとりたてて鳥の名の付く名所は見当たらない。

 木村氏が挙げた例の他に、隅田川の浅草の対岸、向島百花園に「鳥の名の都となりぬ梅やしき」という千樹庵益賀という俳人の句碑がある。文化十一年(一八一四)に建てられたもので、梅やしきは百花園のことで、江戸の範囲も広がってこの辺りも江戸になったという意味だろう。「夕暮」は、やはり「鳥の名の」が正しい。

(掲載号:02月19日号)