週刊誌コラム
週刊新潮「タワークレーン」
江戸の 面影残す 古民家
東急目黒線洗足駅の北西、徒歩五分ほどの目黒区原町二−五−八に「宮野古民家自然園」と銘打った古びた屋敷がひっそり建っている。旧碑文谷村の旧家の建物で、江戸時代の農家の面影を伝える貴重な建造物として同区指定有形文化財になっていて一般公開されている。
門を入ってすぐ右手に建つ木造平屋百三十二平方メートルの母屋は、骨組みや間取りなど十八世紀の建築当時のままと推定される。ただし、茅葺きの屋根は銅版葺きに変わり、南側の庭に面した縁側のガラス障子は大正時代に作られたものである。
もっとも、縁側の廊下は長さ九メートルもの杉の一枚板でできている。土間を上がって左手に広がる板敷きの座敷は、昔囲炉裏がある居間だった。そこと八畳間の奥座敷を区切る帯戸四枚は一本の杉から取ったもので、同じ木目をしている。その縁取りは檜材が使われている。
土間の突き当たりの部屋は天井がはずしてあって梁や桁などの構造がのぞけるようにしてある。また、この部屋には江戸時代から太平洋戦争時代くらいまで宮野家が使用していた民具類の数々が展示されている。
文久三年(一八六三)に発行された諸国通行手形、明治の地券、学校の教科書、明治から昭和十年ころまで使われたという電式壁掛電話器、昭和初期のラジオや蓄音機等々。中には空襲警報発令中と赤字で書かれた木札、軍国少年が熱中した行軍将棋などという珍品もある。別棟の納屋にも昔の農具類が展示されていて興味が尽きない。
起伏のある枯山水の庭も、敷地の周囲百五十メートル以上にも及ぶ屋敷林と共に十分一見の価値がある。入園料二百円。休園日は月曜日と七月十三日−十八日、十二月二十一日−一月十五日。
(掲載号:04月21日号)
