週刊新潮「タワークレーン」
太宗寺 六地蔵 閻魔堂
東京メトロ丸ノ内線「新宿御苑前」駅から二分も歩けば太宗寺(新宿区新宿二−九−二)である。境内に入ると、すぐ右手に江戸六地蔵の一つ、金銅の大地蔵(高さ二・六七メートル)が鎮座する。正徳二年(一七一二)の建造で、ここが甲州街道の出口に当たるため庶民が旅の安全を祈願した。石の台座には江戸の寄進者の名が数多く刻まれている。
大地蔵の先に閻魔(堂がある。堂内に、文化十一年(一八一四)造立の閻魔像が安置されている。木造で、像高は五・五メートル。江戸一番の大閻魔と言われ、年に二度の賽日((陰暦正月十六日と七月十六日、奉公人が休暇を貰える薮入(りに閻魔に参る)の賑わいは、とりわけ有名だった。
堂内は暗いが、扉に「拝観される方はボタンを押して下さい。照明が一分間点灯します」と案内書きがある。ボタンを押すと、正面に赤い衣冠の閻魔大王が大きく浮かびあがる。左わきには白い衣装の奪衣婆(像が控えている。こちらは閻魔の従者で、三途の川を渡る亡者から罪の軽重によって衣服をはぎ取ったという地獄の役人。これも木造で像高は二・四メートル、明治三年の作と伝えられている。
弘化四年(一八四七)のこと、この閻魔大王の玉眼が水晶だというので、恐れ多くも閻魔の目を抜こうという二人組の賊が出現した。夜陰に一人が閻魔の肩に這いあがって目玉を刳(りぬいたとたんに落下して気絶、びっくりした相棒が「助けてくれ」と大声で救助を求めたから、寺や門前町から人が集まり、二人組はその場で御用になった。
間抜けな賊だが、相棒を見捨てたりしないところに江戸の人情が出てもいる。盛り場新宿で発生した事件だったから江戸中の評判になり、早速錦絵などにも仕立て上げられて、太宗寺の閻魔大王の株は一段と高まった。
(掲載号:12月22日号)