週刊誌コラム

週刊新潮「タワークレーン」

幻の 電車道 柳通り

 JR目黒駅西口から権之助坂を下って目黒川に架かる目黒新橋を渡ると、目黒通りから分かれて斜めに南へ伸びている道路がある。一見して枝道のようだが、道幅はかなり広くて歩道もあり、立派な道路といってよい。

 「柳通り」の標識があるこの道を進む。沿道には、主に会社の事務所風のビルが立ち並んでいるが、飲食店や民家もちらほらと見受けられる。車道は両側共に駐車している車が目立ち、車や人の交通量は目黒通りなどに比べれば、かなり少ない。

 すると歩いて数分、山手通りと交わった地点、不動前で道は途切れたような形になっている。何か中途半端な感じのする道路ではある。

 実はこの道路、もともと普通の道路として造られたものではなかった。市街電車が走る予定の敷地だったのである。

 戦前、天現寺橋−恵比寿間の市電線路を目黒不動前まで延長する計画があった。東京市は目黒新橋から終着点までの軌道敷地用地として現在の柳通り部分を買収した。

 しかし、東京都が誕生した翌年の昭和19年、元の電車路線そのものが廃止となり、延長路線は全く日の目を見ることはなかった。戦後になって、軌道用地はそのまま普通の道路になったという次第である。

 それでも、当時の計画を知っていた人たちの間では、この道路が「電車道」と呼ばれていた。現在の柳通りという名前は、かつての街路樹が柳だった名残である。

 歩道を含めた道幅は18m、全長600m弱。つまり、太くて短いこの道路は、目黒通りと山手通りを一応結んではいるものの、交通量から見て車にはあまり利用価値がないのかもしれない。だが、歩行者には車が少ない分快適で目黒不動参拝の折など、お薦めの道である。

(掲載号:12月16日号)