週刊誌コラム

週刊新潮「タワークレーン」

馬喰坂 庚申塔 長泉院

 目黒区民センターそばの目黒川に架かる 田道 ( でんどう 橋のたもとから西へ行くと、山手通りに出る。通りを横切ってそのまま進めば、すぐ逆S字型に登り道となるゆるやかな坂道に続く。

 「ばくろ坂」という。坂下の標示に、昔この辺りの方言で風雨などで道に穴が空いた状態を「ばくろ」といい、この坂の凸凹がひどかったので、その名が付いたと説明されている。また、当て字で「馬喰坂」と書いたともある。

 坂をだいたい登り切った左手に永隆寺という寺の墓地があり、坂に面した一画に「馬喰坂庚申塔群」と呼ばれている4基の庚申塔が建っている。それぞれ延宝8年(1680)、宝永3年(1706)、同7年、寛保2年(1742)に建立されたもので、 青面 ( しょうめん 金剛像や三猿などが彫られている。

 庚申塔群の前の道を北へ、つまり、ばくろ坂を登り切って右折すれば名刹長泉院が静かなたたずまいを見せている。

 『江戸名所図会』に「 高峰山長泉 ( こうふさんちょうせん 律院」とあって「浄土宗にして縁山に属す」と記されている。縁山とは増上寺のことで、長泉院は宗派の戒律厳守を主張して宝暦11年(1761)に建立された。
 「山間より清泉湧出して、境内を 繞 ( めぐ り流るゝゆゑに、長泉の号あり」

 同書が説明する寺名のいわれで、「常行念仏の道場にして、 浙々 ( せつせつ たる松風はとこしなへに 梵唄 ( ぼんばい の声を助け、……実に 清浄 ( しょうじょう 無塵の 浄刹 ( じょうせつ にして常に寥寂たり」ともある。梵唄とは、節を付けて経を唱える仏教音楽の声明のことである。

 いかにも丘陵地の寺といった感じの挿絵も載っており、それには松の木が多く描かれている。今は住宅が密集している中目黒のこの辺りにその面影はないが、長泉院は現在もかなり特徴のある寺である。それについては、改めてご紹介しよう。

(掲載号:03月27日号)