週刊誌コラム

週刊新潮「タワークレーン」

前田邸 跡地の 駒場公園

 野趣豊かな駒場野公園の200メートルほど北方には、似たような名前の駒場公園が広がっている。面積は約4ha、手入れの行き届いた樹木が繁る同公園は旧加賀百万石16代当主前田利為(としなり)侯爵邸跡地である。

 前田邸は元々本郷にあったが、大正15年、東京帝国大学農学部の敷地の一部などと等価交換の形で駒場に移ってきた。間もなく、ここに立てられた洋風、和風の家屋は今もきちんと保存されていて、広い敷地と共に戦前の華族の豪勢な生活振りを偲ぶことができる。

 本邸として昭和4年に完成した洋館は、地上3階、地下1階の鉄筋コンクリート造りで、延べ床面積は1200平方メートルある。英国の後期ゴシック様式を簡略化したチューダー様式のデザインで、玄関ポーチの扁平アーチにその特徴が見られる。外壁は落ち着いたスクラッチタイル張り。内部は各部屋にイタリア産大理石のマントルピースがあるという豪華さで、建築当時、東洋一の邸宅と称されたという。

 昭和5年完成の2階建て書院造りの日本家屋は、1階が洋館と渡り廊下でつながっている。ロンドン駐在武官だった侯爵が、外人客の接待のために建てたともいわれている。

 この邸宅は太平洋戦争中、ボルネオ方面司令官として出征していた侯爵が不幸にも戦死したため人手に渡った。戦後はアメリカ極東軍司令官の官邸として接収されるなどの変遷を経て昭和39年、都の所有になった。

 3年後、洋館は東京都近代文学博物館となり、庭園も公園として一般に開放された。しかし、博物館は平成14年に廃館となった。

 現在は都指定有形文化財の洋館が土、日曜日と祝日に、和館といわれている日本家屋の1階広間が月曜以外の日に休憩所として無料開放されている。

(掲載号:05月15日号)