週刊誌コラム
週刊新潮「タワークレーン」
烈女の 銅像立つ 正覚寺
東横線中目黒駅の東方、山手通りと駒沢通りの交差点南西角に正覚寺という日蓮宗の寺が建っている。元和5年(1619)の創建といわれ、天台宗の開祖伝教大師・最澄作と伝えられている鬼子母神像が祀られているので「目黒鬼子母神」と呼ぶ人もいる。
同寺には、江戸時代初期に起きた仙台藩伊達家のお家騒動のときの幼君亀千代の母といわれる浅岡の局こと三沢初子の墓があり、境内にはその銅像が立っている。初子は、歌舞伎や人形浄瑠璃で知られる『伽羅先代萩』の女主人公政岡のモデルになった人と伝えられている。
伊達騒動が題材の『先代萩』の政岡は烈女として知られ、戦前は特に人気があった。
政岡はお家横領を企む悪人一味から命を狙われている幼君鶴喜代に贈られた毒入りの菓子を我が子千松に食べさせる。毒入りが発覚するのを恐れた悪人の1人は、主人のものに手を出した無礼をとがめて千松を殺してしまう。
自分の子供が目の前で殺されるのを見ながら、政岡は一滴の涙もこぼさない。これを見た敵方は、政岡が我が子と若君を取り替えていると思い込み、彼女に連判状を渡してしまう。彼らが去ったあと、初めて政岡は嘆き悲しむ。
高さ3メートルもの初子の銅像はこの『先代萩』の政岡そっくりである。そのはずで、名女形6代目尾上梅幸の政岡をモデルに昭和9年、新田藤太郎・北村西望・建畠大夢の3人が共同制作したもので、実際にモデルになったのは体型が梅幸によく似ていた弟子の梅朝扮する政岡だったという。
この三沢初子之像の台石裏には「日々に増しゆく道義の頻発と思想悪化の現状」は国を危うくするもので、これを正すための実物教育として建てたという建造の趣旨が刻まれている。
(掲載号:06月27日号)
