週刊誌コラム

週刊新潮「タワークレーン」

中目黒 総鎮守 八幡神社

 歌舞伎や人形浄瑠璃の『伽羅先代萩』の女主人公政岡のモデルとなったといわれる三沢初子の銅像がある正覚寺の南西には、中目黒八幡神社が鎮座している。社殿は、道路より一段と高い丘陵の中腹に建っている。

 境内には高さ30メートルを超えるエノキやケヤキ、イチョウなどの古木が茂り、区の保存樹林に指定されている。重厚な本殿などの建物と共に旧中目黒村総鎮守の風格を今も十分に保っている。

 幕府の学問所・昌平黌の地理局総裁林述斎の編纂で、文政8年(1825)頃成立した『新編武蔵風土記稿』に「村の西方小山の上に社あり……村の惣鎮守なり、勧請の年代不詳、祭礼9月18日十二座の神楽を奏す」と、同神社が記されている。

 現在の祭りは、9月の第3土・日曜日に行われ、神楽殿では12の演目の神楽が演じられる。これにちなみ、本殿横には「十二座之神楽塚」の石碑が昭和52年に建てられたが、境内には他にも見ものがある。

 本殿に上がる石段わきの御手洗は天然の湧き水である。丘陵地の末端ならではの現象だろうが、現在の都内では貴重な自然の恵みである。ペットボトルなどを持って汲みにくる人も少なくない。

 御手洗の向かいには、これまた珍品の「さゞれ石」の銘のある岩が立っている。国歌君が代に「さざれ石の巌となりて」とある岩石だという。

 標示によると、正式には石灰質角礫岩といい、石灰分が溶けて地下の小石を結び付けて岩状にしたものだという。岐阜県の揖斐川上流で採石されたもので、平成10年、本殿の昭和造営60周年を記念して設置された。

 千代に八千代にめでたい記念石といえるだろう。天然の御手洗と共に見落とせない岩石である。

(掲載号:08月08日号)