週刊誌コラム
週刊新潮「タワークレーン」
京王井の頭線 神泉トンネルの秘密
京王帝都電鉄が深夜新宿発の電車に「女性専用車」を導入した。酔っ払いや痴漢から女性を守るのが目的で、二〇〇〇年末の試行から好評だったので、〇一年三月のダイヤ改正で平日深夜の計八本に定期化したという。
『明治世相こぼればな史』(読売ぶっくれっと)には、「明治時代にもあった女性専用車両」と明治四十五年一月に甲武線(現・JR中央線)に登場した痴漢対策の専用車の記事が紹介されているから古くて新しい話題のようだ。
渋谷−吉祥寺間を結ぶ京王井の頭線の方には、今のところ女性専用車はない。こちらで話題になるのは、昭和八年八月の開業当時に颯爽と登場した女性車掌である。
昭和初年の世界不況のなかで新路線開業に向けて苦労した帝都電鉄の経営者は智恵をしぼったらしい。会社幹部が総出で沿線地主を歴訪し、鉄道が開通すれば利益を受けるのだから土地を寄付してくれと口説いて、かなりの協力者を得た。それができない渋谷付近では、地下の使用権だけを取得して隧道式を採用した。神泉隧道がそれである。
まず渋谷−井の頭公園間の工事が完成したところで早速開業した。モダンなチョコレート色の鋼鉄車は部品まですべて国産が売り物で、高さ一メートルを超える大窓からの展望も抜群で、スーツに清潔な白襟をみせる女性車掌が評判になった。路線が吉祥寺まで伸びたのは翌九年四月である。
昭和七年の大東京市制施行にあわせて、社名を東京郊外鉄道から帝都電鉄に改めたことは前回触れたが、開業当初は<乗客の数は雑木林より少なかった>(『京王帝都電鉄30年史』)とある。興味深いのは、車両の運転士席の前に取り付けられた大きな日除けの庇で、雑木林に沈む西日が射し込み運転の邪魔になったためだった。
(掲載号:07月12日号)
