週刊誌コラム
週刊新潮「タワークレーン」
二つの 道標に 時代色
南品川の総鎮守荏原神社の旧地だったと推定される西品川の貴船神社境内には、区の文化財に指定されている江戸時代の石の道標がある。高さ1メートル余の角柱で、境内末社の三木稲荷の社殿脇に建っている。背面の年号から「文政11年(1828)銘道標」と呼ばれている。
正面は観音菩薩を表す梵字の下に「西 めくろ」、左側面には「左 北品川」、右側は「右 南品川」とそれぞれ刻んである。「めくろ」は目黒で、背面には年号のほか、これを建てた「松原氏」の名も刻まれている。
松原氏は貴船神社が鎮座している地の旧名三木村に隣接する居木橋村、つまり前に紹介した居木神社などがある地域の名主を代々務めた家柄である。道標は、元は居木橋村と三木村の境にあったらしい。
神社正面の道を東へ、三木小学校を左に見ながら行くと間もなく三叉路があり、そこの北西にはやはり石造角柱の「大正六年銘道標」が建っている。年代のわかる石造道標では区内で最も新しいものだが、大正の時代色が表れていてやはり区の文化財に指定されている。
正面に「マエ オホヰ道」左側面「マエ ヘビクボ道」右側面「マエ オホサキテイシヤバ道」、背面にも「マエ キリガヤ道」と刻んである。
オホヰは大井、ヘビクボは蛇窪で現在の二葉・豊町一帯の旧名である。オホサキテイシヤバは大崎停車場で、今なら大崎駅と記されるのが普通だが、この道標が建てられたころというより戦前までは停車場が一般的だった。キリガヤは桐ヶ谷である。
道標の前には、女優黒柳徹子さんがベストセラーとなった著書『窓ぎわのトットちゃん』の印税を寄付して設立した社会福祉法人トット基金が運営しているトット文化会館が建っている。
(掲載号:04月20日号)
