週刊誌コラム

週刊新潮「タワークレーン」

恵比寿橋 軍馬の碑 鼠 塚

 JR渋谷駅の東側を流れる渋谷川は、山手線沿いに南に向かい、隣の恵比寿駅の近くで都心に向きを変える。このあたり、環状道路の明治通りも渋谷川の流れに沿っていて恵比寿駅付近から天現寺橋への道路の両側には、高層のオフィスビル、マンションビルが立ち並んでいる。

 明治通りをちょっと南へ折れると、渋谷川である。河川改修工事が進んで、落ちついた散歩道もつくられている。恵比寿ビールは恵比寿駅から全国へ出荷されたが、明治の頃、都心への出荷は荷馬車だった。渋谷区恵比寿1丁目の恵比寿橋は、かつてビール出荷のため渋谷川に架けられた橋である。ビールの馬車は、いま恵比寿ガーデンプレイスになっている工場から坂道を下り、恵比寿橋を渡って都心に向かった。だから、ビール坂、ビール橋の愛称が残る。

 恵比寿橋にほど近い恵比寿1−18に曹洞宗の台雲寺がある。川沿いの道にイチョウの老樹があり、かたわらに渋谷区教育委員会の案内板が立っている。<明治27・8(1894・5)年の日清戦役に従軍した日本軍人の慰霊碑とともに、相手側の清国軍人の霊を弔った碑がたてられていて、当時の人びとの博愛精神を知ることができます>

 寺の入口の左に「弔忠」と大書した高さ3メートルほどの大きな碑があり、その隣に小さめの清国軍人慰霊塔が並んでいる。さらに、その脇に軍馬の慰霊碑がある。碑面には「みいくさを の(乗)せるのみかは かて(糧)をさへ はこぶも馬のちからなりけり」の和歌があり、戦陣の犠牲となった軍馬を讃え、憐れんでいる。

 広尾の祥雲寺には鼠塚の碑がある。これは明治32年から数年間大流行したペスト予防のため駆除された鼠の供養碑だという。明治人の心の広さがわかる。

(掲載号:07月06日号)