週刊誌コラム
週刊文春「立ち話」
再建の達人・二宮尊徳(3)
ワーキングプアー
一八〇センチ、九〇キロの体躯。鋭い眼光、雷のような地声。睡眠三時間、誰よりも早く起きて田畑を見て回り、村民の先頭に立って開墾した男、二宮尊徳。
柴を背負って論語を読み、洪水で田畑を奪われ、兄弟ばらばらで他家に預けられた少年は、逞しく、したたかに成長していた。
尊徳は「遣ったつもりで貯金しなさい」と藩士に説く一方、藩の財政を支える農村を再建することを一番のテーマと考えた。しかし、江戸末期、荒廃していたのは土地だけでなく、農民の心こそ深刻だった。
日本の異常気象は江戸時代も同様であった。冷害、大雨による大飢饉は天災だが、さらに年貢という人災が農民たちをとことん追い詰めた。働いても働いても報われないワーキングプアーは、現代に比すべくもない。米を基本とする封建社会では、生産力が落ちると取る側の武士も、取られる農民も経済弱者となる。こうした武士と農民の間に立って、どうすれば負の連鎖を断ち切れるかの仕法を具体的に示した点に尊徳の偉大さがある。
「貧しい者を救うには貧しい者自身の力をもっていたします」。尊徳はそう言って藩主の援助を断る。一時的な助けはかえって農民のためにならないからである。その代わり、働き者には褒美を与えたり、年貢を免除したりして農民の向上心をあおった。経済的な自立を助けるため「報徳金」という低利融資も行った。
そして最も注目すべきは、それぞれ土地の履歴を百年前まで遡って読み、農村復興のネックとなっている問題解決を行った点である。それが、河川の改修、堰の築造や改修、水路の掘削など土木の仕事である。
(掲載号:12月27日号)
