週刊誌コラム
週刊文春「立ち話」
担当者との熱い議論が世界初の成功に結実
大阪市阿倍野区、関西屈指の高級住宅地「帝塚山」の近くで、浸水対策の地下工事の一環として世界初の「上向きシールド工法」による掘削が行われている。
浸水防止用の地下調節池につながるトンネルへ雨水を流し込むには立坑が必要となる。この立坑を地上から掘り下げるには、交通量の多い庚申街道を半年近くも片側一車線通行に規制しなければならなかった。
「大阪市の担当者が非常に熱意のある方で『地上の作業を短縮して、近隣住民や道路を利用するみなさんの迷惑を解消できるなら』と世界初の掘り上げ式を採用してくれたんです」
大成建設の近藤文夫作業所長は熱っぽく語った。
この最新式の掘削機は、すでにできている横向きのトンネルから出発する。上向きに掘ると同時に、直径二m余りのトンネルの内壁を設置する。この内壁を足掛かりにしながら、一日に約二m掘り上がってゆく。
そして、前もって地上に作っておいた到達点に達すると、クレーン車で回収され、また次の立坑の現場へと運ばれるのである。
これだと、地上では、到達点の工事に一カ月、後は回収に一晩かかるだけとなる。つまり、庚申街道の交通規制の期間は、なんと通常の六分の一で済むのだ。
「地上での工期短縮や掘削機の再利用だけでなく、横トンネルに前もって作られた特殊な接合面から掘り上がってゆくので、坑外に出ての接合作業もいらず、安全性も格段に高まりました」
まさにいいことずくめの話だが、そこは「世界初」の試み。現場は常に緊張感が漲っているという。
「市の担当者と互いを信じて本音で何度も話し合った成果です。この技術は、これからの都市部の地下工事を大きく進歩させますよ」
その言葉にはパイオニアの誇りが感じられた。
(掲載号:06月14日号)
