週刊誌コラム
週刊文春「立ち話」
工事後も通ってしまう建設マンの"親心"
千葉市立郷土博物館の免震・改修工事の現場をまとめる大成建設の津田誠一担当所長は、一九八二年に同社に入社して以来、東京ベイNKホールや北海道の泊発電所など二十を越える豊かな現場経験を持っている。
そんな津田担当所長にとって、最も印象的な現場の一つに、一九九五年から一九九七年にかけて関わった栃木県日光市の「小杉放菴記念日光美術館」がある。
「この美術館のように意匠性の高い建築物の場合、例えば屋根にR(カーブ)がかかっていたりするので、足場を組むだけでも一苦労です。人に感動を与える仕事はそれだけ難易度も高い。しかし、それを突き抜けた時、初めて新たな技術が生み出されるんです」
所長の仕事はスポンジに似ている、と所長は言う。発注者やデザイナーからの要求条件を柔軟に吸収しなければならないからだ。一方、現場を取りまとめる責任者として、顧客の要求を職人さんに実現してもらうためには、相手の立場に立つ優しさと思いやりがなければ、ちゃんと伝えられない。
「こだわりって大切じゃないですか。いろんな要素のバランスを取りながら、携わっている人とトコトンこだわり合ったものを形にしてゆく。そんな仕事こそ、現場監督冥利に尽きますね」
津田担当所長は現在も、会社の人間としてではなく個人として、年に二回は日光美術館を訪れる。
「自分が携わった建築物はどれも我が子のようでかわいい。日光美術館のラウンジでコーヒーを飲んでいる時に、訪れた人たちが『ここの建物、すてきね』って話しているのを聞くと、嬉しいですねえ」
完成したばかりの美術館を背景に、妻と娘を撮影した記念写真に目を細めながら、感慨深げに話してくれた。
(掲載号:11月01日号)
