週刊誌コラム

週刊朝日「大いに成るほど〜近代化遺産編」

日奈久港水門・防波堤 : 熊本県八代市

 ムツゴロウという魚は春の季語となっている。春のうららかな日、ムツゴロウは干潟の上で頭の上に突き出した目をギョロつかせるのである。このハゼに似た魚は、水の中というよりむしろ干潟の上を好むようで、ムナビレを使ってヨチヨチと泥の上を這っている様子は、魚はこのようにして陸に上がってきたのだな、と遠い昔を思わせるのである。

 このムツゴロウのすむ有明や八代海では、明治になって大規模な干拓事業が行われてきた。熊本県中部の八代の海岸には水門や土手など、干拓を物語る近代化遺産が数多く残る。

 また、八代市の南部には、九州南西部の代表的な温泉、日奈久温泉がある。この海岸にある日奈久港は明治28年に竣工。石造りの防波堤で囲まれており、明治の地方港の姿を今にとどめている。また、日奈久温泉は木造3階建ての「金波楼(旅館)」など戦前に建てられた風格ある旅館が残り、レトロな雰囲気を漂わす町である。

 明治から営々と行われた干拓、石造りの港、そしてレトロな雰囲気の温泉と、ちょっと渋いが近代化遺産の残る八代海の沿岸は機会あれば訪れていただきたい場所の一つだ。

 ところで、ムツゴロウという魚、姿かたちはグロテスクだが、味は中々のものだ。近代化遺産もムツゴロウに似たところがあって、水門や防波堤など、見た目は地味だがその地域の人たちが行ってきた営みや生業を雄弁に物語るのである。

(掲載号:2002年05月17日号)