週刊誌コラム

週刊朝日「大いに成るほど〜近代化遺産編」

一斗俵沈下橋 : 高知県高岡郡四万十町

 日本最後の清流四万十川、川を見に行くだけでもよいのだが、この川には近代化遺産として「沈下橋」が架かっている。沈下橋と言うのは、普段は水上に出ていても増水時には水の下に沈むことをあらかじめ考えてつくられた橋のこと。橋の橋脚や橋床の角を丸くして水の抵抗を少なくし、また、手すりや欄干などがあると流木などが引っかかりやすくなるため初めから取り付けず、橋脚と橋の床だけのシンプルな形をしている。

 水に沈む橋という全く逆転の発想をしたのは高知市土木技師吉岡吾一だった。水上にずっと出ているよりも増水時には沈んでしまうようにすれば、はるかに工費は安くなる。最初はなかなか工事を認められなかったらしいが、沈下橋の導入で、どれだけ山間部の人々の行き来が楽になったろうか。

 昭和2年に第一号の沈下橋が高知市柳原の鏡川に架けられた。しかし、この橋は現存しておらず、四万十川に現存する沈下橋で最も古いものは昭和10年に完成した、一斗俵沈下橋(四万十町)だ。鉄筋コンクリート製で、9連の橋、幅2・5メートル、全長60・6メートル、現在は国の登録有形文化財に指定されている。

 沈下橋が盛んに建設されたのは戦後で、全国の一級河川に現存する沈下橋は410橋、高知県には最多の69橋があると言う。手すりも無く、増水時には危なくて渡れないし、車のすれ違いもままならない。しかし、最後の清流四万十川に架かるシンプルな姿の沈下橋は周囲の風景にぴったりと合っているようだ。

(掲載号:2007年07月13日号)