週刊誌コラム

週刊朝日「大いに成るほど〜近代化遺産編」

和風近代化遺産 : 奈良県奈良市

 爽やかな空の下、古都奈良の中秋を訪ね歩く。伝統的な町並みと社寺がつくり上げる歴史的な景観。奈良と言えば、万葉の昔から連綿と続く歴史を偲ばせはしても、近代化遺産を抱える町、というイメージはほとんど思い浮かばない。

 明治になって古都にも西洋化・近代化の波が押し寄せてきた。現存する建築として奈良の文明開化を象徴するのが、明治27年に完成した奈良国立博物館(旧帝室奈良博物館)。この荘重豪華なネオバロック様式でまとめられた博物館は竣工当時、奈良の伝統的な景観を壊す、ときわめて不評だった。

 このためか奈良では古くから建築の形を意識しており、近代的な施設であっても古都の景観を損ねないようにと、和風を基調としたデザインの建造物が多く建設されたのである。しかし、一見しただけでは古い建物のように見え、この町には近代を担った建造物、つまり、近代化遺産はほとんど無いように見えるのである。

 奈良市春日野町に残る、旧奈良県物産陳列館(明治35年 関野貞設計 国重要文化財)は代表的な近代的な和風の建築で、現在は仏教美術資料研究センターとして活用されている。この他にも東京駅を設計した辰野金吾の奈良ホテル(明治42年)があり、奈良の玄関JR奈良駅舎(昭和9年)なども和風を基調としたデザインだ。

 古都の社寺見学の途中で見かける和風の近代化遺産。古都では明治時代から景観を意識していたのである。

(掲載号:2002年10月04日号)