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週刊誌コラム

週刊朝日「大いに成るほど〜近代化遺産編」

天城山隧道 : 静岡県河津町・伊豆市(旧天城湯ヶ島町)

 冬枯れの木立の中の散策も趣きがある。伊豆の山は新緑も良いが、寒いのを我慢して歩くこの時期も良い。修善寺駅からバスに乗って、およそ50分、水生地下(すいせいちした)というバス停で降りて、しばらく歩くと天城山隧道(旧天城トンネル)に出る。

 このトンネルは、川端康成の「伊豆の踊子」や井上靖の「しろばんば」、松本清張の「天城越え」など数多くの小説の舞台として使われているので、御存知の方も多いだろう。一方、近代化遺産としても、明治後期の代表的な道路トンネルとして、国の重要文化財に指定されている。

 標高708メートルの場所に掘られた、幅4・1メートル、高さ4・2メートル、長さ446メートルに及ぶ石造のトンネル。伊豆で採れる吉田石が使われていて、入り口(洞門)や内部に重厚な雰囲気が漂う。

 そもそもこのトンネルは、南伊豆と東海道を結ぶために明治38年に建設された。伊豆は南と北の間に天城山系があり、トンネルを掘ることで大幅に経路を短縮できた。鉄道交通の発展で、かって廻船の寄港地として発展した下田などの南伊豆の町は凋落し、是非とも直接北に抜ける道路の建設が必要だった。

 そんな、明治の人たちの思いや、ロマンチックな踊子との恋、天城山隧道には様々な物語が織り込まれている。冬の日は短い、しかし晴れた日の空気の色は透明だ。こんな日の伊豆山中の古いトンネルの風情は味わい深い。

(掲載号:2007年01月19日号)