週刊誌コラム
週刊朝日「大いに成るほど〜近代化遺産編」
北前船主の館 右近家 : 福井県南条郡南越前町
福井県敦賀はかつて北前船の重要な港であった。湾の一番奥にある敦賀から海を見て、左に敦賀半島の先端立石岬、その対岸に河野という集落がある。現在の河野は落ち着いたたたずまいを見せる海岸の集落だ。しかし、かつてこの地域は右近家など北前船の大船主を輩出した場所だった。
風格のある屋敷が海沿いに並び、それらがつくりあげる空間はまるで、古都の一隅に紛れ込んだようであり、北陸の村としては異彩を放っている。右近家は全盛期30隻あまりの船を持つ日本有数の船主だった。北前船の時代は江戸時代に終わったわけではなく、明治30年代まで続き、その後も、持ち舟を蒸気船に換え、あるいは海上保険業に乗り出すなど、時代の波を見事に乗り切ったのである。
現在、右近家の屋敷は「北前船主の館 右近家」として、北前船の資料を中心とした展示館となり、一般に公開されている。豪壮にして繊細なつくりの本邸、大きな北前船の雛形(模型)や船絵馬(船を描き神社に奉納した額)をじっくり見ることができる。
もう一つ特筆すべきは、昭和の初め頃(昭和10年とされる)、右近家が建てた屋敷の崖の上に残る山荘風の西洋館だ。なぜ、ここにこんな本格的な西洋館が残るのかといぶかしくなるほど、本格的なデザインである。日本で活躍したアメリカ人の牧師であり建築事務所も経営したウイリアム・メレル・ヴォーリズの作風に限りなく近い。
(掲載号:2006年12月15日号)
