週刊誌コラム
週刊朝日「大いに成るほど〜近代化遺産編」
箱根富士屋ホテル : 神奈川県足柄下郡箱根町
年の暮れの慌しい生活の合間を縫って、箱根に避寒というのはどうだろう。まさに「忙中閑あり」。人生これくらいの余裕を持って生きたいものである。実際はそれどころではないのだが、夏涼しく、冬暖かい箱根で、のんびりと温泉に浸かると同時に近代化遺産を味わうのが、この時期最高の「閑」だと想像するのである。
箱根登山鉄道の宮ノ下駅の近くに富士屋ホテルという老舗がある。明治11年創業、本館は明治24(1891)年に建てられた観光産業という目から見れば立派な近代化遺産である。
もともとこのホテルは日本を訪れた外国人をお客としており、和洋折衷の建物で、内側は西洋のホテルと同じように土足で上がり、ベッドで寝るスタイル。外観はお寺か天守閣のような和風の姿をしていて、食堂などはエキゾチックな気分を味わってもらうために、西洋人の日本のイメージと言うのだろうか、際立って派手な和風となっている。しかし、100年以上経った現在、かえってこの時代のジャポニカスタイルが新鮮に見える。
西洋人の生活水準にあわせるためか、富士屋ホテルは近代的な設備を早くから取り入れており、明治24年にすでに自家発電で電灯をともしていた。日本初の琵琶湖疎水を使った京都蹴上の水力発電に遅れることわずか1年だった。クラシック・ホテルは、見て楽しく、歴史を紐解いても興味深い近代化遺産、各地にあるので機会あれば訪れてみてはいかが。
(掲載号:2002年12月13日号)
