週刊誌コラム
週刊朝日「大いに成るほど〜近代化遺産編」
秩父セメント第2工場 : 埼玉県秩父市
秩父神社で毎年12月3日に催される祭礼は、「秩父夜祭」として有名だ。この日の夜、秩父神社ではお花畑と呼ばれる御旅所に山車や屋台が集まる。秩父の標高は高く夜はかなり冷え込むのだが、夜祭の勇壮さに酔い、空気は熱気をはらむのである。そして、冬の夜空に打ち上げられる、幾発もの花火も幻想的だ。
普段の秩父は祭りとは違った顔を見せる。歴史の蓄積を感じさせる町で、西武線秩父駅から秩父鉄道の秩父駅までの間にもしっとりと落ち着いた戦前の町並みが残り、旧街道沿いにも古い造り酒屋などが並ぶ。
秩父がセメント産業の町なのはご存知だろうか。昔は「秩父セメント」の商標ではっきり分かったものだが、今は「太平洋セメント」となっているので、ひょっとするとご存知無い方もいらっしゃるかも知れない。町に近い武甲山から良質な石灰石が取れ、この石灰石を原料にセメント産業が発展したのである。
近代化遺産と言うには新しすぎるが、秩父には昭和31年に竣工した「秩父セメント第2工場」がある。この工場のデザインは谷口吉郎。有名な建築家で東宮御所などの設計を行っている。谷口は明治建築の失われていくことを嘆き、明治村の設立に尽力し、初代館長を勤めた。因みに、日本の「産業考古学会」の初代会長も谷口であった。
秩父には谷口吉郎という産業建築の歴史に理解があり、卓抜したデザイン力を持った建築家がデザインした工場がある。こんなこともどこかで書いておきたかった。
(掲載号:2001年12月07日号)
