週刊誌コラム
週刊朝日「大いに成るほど〜近代化遺産編」
宇都宮市水道資料館 : 栃木県日光市
栃木県今市市は近年町村合併で日光市となった。この今市で昔から有名なのは「日光街道の杉並木」。国道119号線の市街地を抜けたあたりから鬱蒼とした杉並木が続いていく。
今市浄水場はこんな杉並木の緑の壁をバックに満々と水を湛えた浄水池とその脇に建つ赤い屋根の西洋館(事務所棟)からなる水道施設だ。この浄水場が完成したのは大正5年。当事は土木施設もロマンあふれる形で造られたのだった。現在、この赤いマンサード屋根の西洋館は、宇都宮市水道資料館として利用されている。
元々、県庁の所在地宇都宮市は水の質が悪く、早くから上水道の建設が強く望まれていた。上水道はようやく大正5年に完成。それでも、全国で31番目の上水道だった。
いつも思うのだが、戦前水道施設はなぜかくも美しい建物を建てたのだろう。今市浄水場の建物だけではない。東京でも地方でも、水道の地上施設はことごとく美しいのだ。それは、上水道も下水道もその主要な構築物は地下にある。膨大な労力と施設が、地下に造られているのだ。浄水所や排水塔などは、水道事業のごく一部に過ぎない。大部分が人の目に触れない事業。こんな中で、地上に現れた今市浄水場のような人の目に触れる施設は一部に過ぎない。
それは地下茎をはりめぐらせた植物の地上に咲いた数少ない花、花なら美しく咲かせよう。そんな風に土木技師達は考えていた。
(掲載号:2006年12月01日号)
