週刊誌コラム

週刊朝日「大いに成るほど〜近代化遺産編」

小岩井農場 : 岩手県岩手郡雫石町

 岩手県盛岡市の郊外にある小岩井農場の夏は、蒸し暑い東京に比べれば余程しのぎやすい。それでも家畜は夏の暑さにバテるらしく、牛舎の中に幾台も大型の扇風機を据えて牛を冷やしている。牧草地の牛たちも、暑い日ざしを避けるために大きな木の木陰に集まってくる。

 もともと、この場所は広大な葦原で、土壌改良や植林を重ねて今のきれいに整備された小岩井農場が出来上がった。明治24(1891)年に創業。小野義真(日本鉄道会社副社長)、岩崎彌之助(三菱社社長)、井上勝(鉄道庁長官)、それぞれの名前を一文字とって小岩井牧場と名づけた。

 現在、小岩井農場には明治から昭和初期に建設された様々な施設が残っているだけでなく、最新の研究にも多く活用されている。この建物のうち、宮沢賢治が詩に詠んだ本部事務所(明治36年)をはじめとして、4階建て倉庫(大正5年)、天然冷蔵庫(明治38年)、1・2号煉瓦サイロ(明治40・41年)、種牛牛舎(大正6年)、1・4号 克ノ(昭和9・明治41・昭和10・明治41の各年)は、国の登録有形文化財に指定されている。小岩井農場は一つの敷地の中に最も多くの登録文化財を持つ会社なのである。

 都会に住んでいると、岩手県の広広とした感じが、とても懐かしくなるときがある。牧草地の大きな木の木陰に涼む牛達を見ていると、都会ではとうの昔に無くなってしまった、真夏の穏やかさを感じるのは私だけだろうか。

(掲載号:2002年08月02日号)