生物多様性【詳細レポート】
フィナンシャルセンター屋上より大手町を望む
なぜ今、生物多様性が求められているのか。そのために私たちには何ができるのか。2010年3月、社外の有識者をお招きし、当社からは環境本部、技術センター、設計本部や土木本部で環境業務に携わる社員を交えてダイアログ(意見交換)を行いました。
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河口 真理子 氏 ファシリテーター |
香坂 玲 氏 |
藤田 香 氏 |
<環境本部環境計画部環境計画・アセスメント室> |
<環境本部環境計画部環境計画・アセスメント室> |
<環境本部環境計画部環境計画・アセスメント室> |
<技術センター建築技術研究所環境研究室> |
<技術センター土木技術研究所水域・環境研究室> |
<技術センター土木技術研究所水域・環境研究室> |
<設計本部環境・ランドスケープデザイングループ> |
<土木本部土木部安全・環境推進室> |
<環境本部企画管理部地球環境室> |
司会(河口) 先ほど自己紹介をいただきまして、本日お集まりの皆さんご自身が生物多様性ということや(笑)、ご専門の分野がかなり多岐にわたるということ、また今日のテーマに対する思いと言いますか、考えもまた多様であることがわかったかと思います。ここからどのような形で進めていこうかと思いますが、自己紹介の中でも、何名かの方から生物多様性は正直よくわからないというお話をいただいております。私自身、素人なりにいろいろと勉強しても、なぜ生物多様性かというのがよくわからないのです。
その理由がよくわからないままに、いや、それは重要だから、COP10からスタートするのだというところからスタートすると、そうか、やらなければいけないんだ、ではどうしようという、ホワイではなくてハウの議論になっていくわけです。実際、どのようなハウがあるというお話はたくさんあって、それに対しては皆さんもご専門だと思うのですけれども、原点に立ち返って、施主さんを一から説得するとなったときには、やはりホワイが議論されなければいけないと思います。そこで、それぞれのお立場から、なぜ生物多様性かというご意見をいただいて、共通の認識というのをつくっていきたいと思います。では最初に香坂先生、ご専門という立場でお願いします。
香坂 なぜ生物多様性保全が必要なのか、条約の言葉で言うと、実は保全とワンセットで、途上国などの発展に寄与していく必要があるということが入っております。皆さん生き物の話がどうしても中心になるのですけれども、当該地域の方々がどのように暮らすのか、それは日本で言うと都市化=まちづくりをどうしていくのかという部分ともかかわりが非常に大きい問題なのですね。
では、まちづくりや都市という問題をどうしていくのかと考えると、2007年以降は世界人口の半分ぐらいが都市部に住み始め、しかもメガシティというものの大部分がアジアに集中している現状があります。やはりこのような都市部での生態系や都市問題の取り扱いが今後重要性を増してくる。とりわけアジア圏では重要性を増してきます。日本国内でもいろいろな取り組みがありますが、今後はヒートアイランド対策や低炭素、それらを実現する街のデザインと一緒に、生物多様性の要素を組み入れていくということが今後の都市計画や、建設業にかかわりが大きいのではないでしょうか。
司会 ありがとうございます。なぜ生物多様性保全に取り組まなければいけないかということと同時に、なぜ人類がこのような条約を締結しなければいけなかったのか、そもそもなぜ生物多様性がなければいけないのかと、いろいろ考えさせられますね。ちなみに生物多様性の生態系ネットワークを考える際に、人間はその外にいるのでしょうか、その中に含まれているのでしょうか。これは意外と重要なポイントではないか。生き物の現場にいらっしゃる方はそのあたりでも違う認識を持っていらっしゃるのではないかという思いがあって、そのあたりのご意見もいただきたいと思いますが、藤田さん、いかがですか。
藤田 地球史を見ると、人類が主役になった時期は、せいぜい600万年前ぐらいですから、そうではなかった時代のほうが圧倒的に長いわけです。生物多様性の重要性を考えるときに何も人間中心で見る必要はありません。しかし、国際条約ができるということは、やはり68億もの人類が生きていくための食料であったり資源であったりという、人間中心で生態系サービスを見ている側面があるからこそではないかと思います。
生態系サービスというとき、食料や水を提供する供給サービスや、気候調節や水を蓄えてくれる調整サービスというのが多く語られますけれども、都市で大成建設のビルの周りに少し緑をつくったからと言って、それは多分食料も供給してくれない、つまり供給サービスもなければ、気温を少し下げてくれるなど、わずかな調整サービスくらいしかないとも言えます。その一方で、香坂先生のお話にも出たように、そのビルで使っている原材料は途上国から輸入してきているわけですから、途上国での生態系破壊が現地の人にどのような影響を及ぼしているかということも考えながら、まちづくりをしなければいけない状況なのではないでしょうか。
香坂 人間にとってなぜ生物多様性が重要なのかを説明するときに、供給面だと、先ほどから出ている生態系サービスのように、恵みをもらっているでしょうというサービスがあり、気温とか防災のような調整機能を担ってもらっていますというサービスがあり、最後に癒やしとかハイキングとかそのような文化的サービスがありますね。この中で、やはり一般の方に理解されやすいのは俳句やハイキングなどを含む文化やレクリエーションの部分かと思います。さらに、都市計画あるいは景観のデザインなどをされている方の立場からすると、そのように気温の調整や防災の面で役に立っている部分があります。ただそもそも多様性にどのような価値があるのかというのは宗教や文化やいろいろな要素が絡んでくるので、金額で部分的に表せたとしても、それにはどこか限界があるのではないかという気がします。
司会 では、生き物に近いところにいらっしゃるお立場の方から、生物多様性が重要なのだという理由があればお願いします。
青島 生物多様性で何が重要かというのはよくわかりませんが、一義的には人間が多過ぎるのが悪いとも言えます。人がもっと少なければ生物多様性もそれなりに豊かになるというのは確かで、例えば東京都を考えてみると、もし人間の行為がなければ、本来はシイ・カシ・タブなどの森林なのですね。ところが実際は、樹林が伐採され、都市に人がどんどん集まってきて、雑木林すらなくなり、残った緑地はほとんど孤立分散している。人間として生活していくときに、果たしてそれでいいのかという話ではないかというように、わからないなりには考えているのですけれども。
藤原 私も香坂先生がおっしゃったことに共感するところがあって、条約の背景には、やはり南北問題があるのではないかと思います。いろいろな分野あるいは利害を持った人たちが、それぞれ生物多様性に対してどういうインターフェースを持つかというのはかなり違ってきていると思います。例えば、我々は建設業ですけれども、同じ建設業の中も非常に多種多様ですね。都市の景観とかそのようなことも言う場合もありますし、山間地あるいは臨海エネルギー地帯の開発などということになればまた違ってくるわけです。ちなみに、私自身の研究領域である、環境土壌学という分野で常に言っているのは、環境調整能力としての地盤環境と、物質循環としての地盤環境の二つさえうまく理解できればということです。生態系サービスにしても循環にしても、生物の生息する場、ひいては自分の住む場所であり、酸素を呼吸し水を利用する場所というところが一番概念的にはわかりやすいのではないかという気がしています。
蕪木 まちづくりのレベルで考えたときに、先ほど、環境への取り組みも文化的なサービスに帰結するのではないかという話がありました。例えば私が2年間アメリカに住んでいた場所では、自分の街の保全エリアをきちんとつくっていました。そこにネイチャーセンターのようなものを置いて、係員がいて、自分たちの土地、自分たちの自然、このようにいろいろな動物が来ているというようなことを地域のプライドとして発信していました。これはどのようなことかと考えると、そこには地域文化的な観点と、生物の多様性を大事にするという観点を持った社会の土壌がある。それはまちづくり全体に出てくるものであって、そこに地域の成熟度が発現していると思っています。
いわゆる文化的サービスではなくて、例えばクールアイランドの形成や生態系の充実の話にしても、実はネットワークで解かないと展開しません。ネットワークで解決しようという街の仕組みをつくっているということは、社会の成熟度が高いというのが結果論的にはあるのです。ですから、体験的にも生物の多様性には何か文化的豊かさも感じるし、そこから街に膨らんでいって地球全体を語るという一つの流れの中で、いろいろな価値観が必然的に出てくると思っています。
香坂 社会や地域の民主性や成熟度に関連しては、フィンランドのプロジェクトの例があります。GISで地図を衛星から撮って、生物種で希少なもの、生態学者から見て貴重な地域というのを決めるのですが、それに加えて、住民たちが投票などで、この地区が好きとか価値があるというものをマッピングしたら、両者には結構ずれがあったのです。
住民の側は、一般種など生態的に見るとはっきり言ってあまり価値がない森や、小さな飛び地の保全を希望したりする。それらを生態学的なデータベースと重ね合わせたときに重要な地区をどうしていくかという議論になります。ただし、現状では一般的にそのような社会的なアプローチをする学者と自然科学系の学者の対話というのはうまくいかないことが多いので、結局は何らかの専門家の方の立場からここが重要ということでゾーニングが決まっていくケースが多いのではないかという気がしています。
斉藤 やはり生物というのは命そのものですので、例えば地球レベルで考えれば、生態系の問題には食糧問題やすべてが入ってくるでしょう。ただ、そのときにやはりスケール感というのが大事だと思います。地球なのか、国なのか、地域なのか、はたまた開発地区なのか、どの考え方をとるかが非常に重要だと感じました。微生物などをいじっていますと、やはりいろいろな種類の微生物の生物相ができていれば、それは非常に豊かな環境なのですね。物質循環のようなことがしっかりできる。例えば水にしても、汚したものはしっかりきれいに戻して環境に出す。空気もそうですね。ですからスケールを上げてヒートアイランドに至っても、出した熱を何らかの形でクーリングするというようなことは、やはり基本的には環境配慮だと思うのです。私たちの仕事でも、計画に環境配慮をうたうことができるかということが、生物多様性につながるところではないかと思っています。
当社には、いろいろな専門の人間がおりまして、今までもいろいろな研究開発から計画までやってまいりました。ですので、今日は生物多様性というテーマですが、あえてそのような言葉を使わなくても、もう既に歴史の中で環境配慮からずっとやってきていますので、これまでの当社の流れというのは間違いではないと思っています。
司会 ありがとうございました。ほかに。では、高橋さん。
高橋(一) 当社の環境計画というのは20年ぐらい前からずっとやっていました。そのころは生物多様性という言葉でなはく、今、蕪木さんのお話にあったまちづくり、まちをつくっていく指標の一つとして緑や鳥をとらえていました。それはなぜかと言うと、生物のピラミッドの中でも見えやすい、わかりやすい形のものを積み上げていくことで、取り組みをアピールできるのではないかと考えたからです。そして鳥がいるということは、それを支えるための生物系がしっかりしているということでもあります。そうしたポイントを、以前から知らず知らずのうちにやっていたという感じがいたしました。
高山 私は主に海の干潟の造成をやっているのですが、ここでも、生物多様性というのはとりあえず種類も数も多くて、住める場所がたくさんあればいいのではないかと考えています。やはり生物ピラミッドで言うところの一番下の生物が住めるような場所をつくることがうまくいけば、おのずと生物が自立していくような場所ができるのではないかと思っています。また、多様性がなぜ大事かという話について、水産業は一番わかりやすい生態系サービスの恩恵を受けているわけですが、サービスを受けているから大事というのと、それをこれからも受け続けていきたいから、今までのような使い方ではよくないという、利用の仕方のようなところに深く多様性がかかわっていると思いました。
香坂 先ほどご指摘のあった、スケールと時間軸と生物多様性というのは非常に根本的な問題で、生物多様性の指数をつくるときには、時間軸と規模によっていろいろなパターンがあります。さらに、ミクロなものを積み上げていったらマクロなものになるのか等、いろいろな議論があるところです。とりわけ、生物多様性の中で今議論の中心になっているのは、何か圧力があって状態が変わり、それに対して人間界、人間のほうが反応しなければいけないが、何をするのがいいのか、効果的かが議論されています。皆さんが今悩んでいるところも、多分ここだと思うのです。
DPSIR(注:欧州環境庁が採用した、社会と環境の相互作用を記述する枠組み)というのは非常にメリットがあって、因果関係を非常にはっきりさせてくれます。要するに、ある土地の使い方を変えたら種が変わる。例えば蝶々が減る、あるいは微生物が減るというできごとについて、科学と政策を結びつける非常に便利なツールなのですけれども、現実には多くの場合ねじれがあって、種が減るということがサービスが減るということとは1対1の対応ではないのです。何かたくさんの種がいたほうがいいというのは漠然と大きな流れではわかるのですけれども、ある一つの種だけを取り出して、増えている、減っているということをやっていても、実は人間が受けているメリットのようなところには直接には必ずしも反映されるわけではないという難しさがあります。
司会 ここまでいろいろな立場からご意見をいただきました。それをまとめると、COP10で言われている生物多様性というのは実は生物学的・自然科学的なものではなく、とても社会科学的なものだということです。香坂先生の最初のお話は開発発展のためということでした。藤田さんからも、68億人もの人口が生きていかなければいけないというお言葉がありましたね。要するに人間社会のニーズとして、生物多様性を政治課題にしなければいけないという社会的な認識がある。一方で、現場で微生物や生物にかかわっていらっしゃる方からすると、環境が豊かだというのは直感的に、または経験上いろいろな形で生物多様性と結びついているのですが、高山さんからも、漁業が豊かであるためには海が豊かでなければというお話があるなど、やはりなぜ生物が重要かというより、人間社会のニーズゆえに、この問題が重要になっているととらえななくてはならないのではないか。
香坂先生にお話しいただいたDPSIRも、科学評価と政策を結びつける、まさにそのためにあるのです。科学がベースになければいけないけれど、それは政策に落とし込むためである。というように整理すると、これから何をしなければいけないのかということを考えた場合に、水の生態系の場合は魚場を確保することが目的だったり、都市の生態系であれば不動産価値や住む人たちのアメニティーが課題だったりというように、問題が整理できるのではないでしょうか。

「大手町1-6計画」のプレゼンテーション風景(フィナンシャルセンターにおいて)
司会 COP10で語られている生物多様性は、結局社会的な理由と言いますか、人間社会の問題であるということで一応整理したのですけれども、ではこれから、大成建設としてどのようなことをやるべきか。戦術的・技術的にこうすれば生態系が豊かになるのだという話と、そうは言っても、それを施主さんが納得してくれなければ絵に描いた餅になる。そこをどのようにして納得させるべきか、また、それは会社としてやるべきことなのか、もっと別な行政などがやるべきことかということを議論できればと思っております。
渡邊 当社は今までいろいろな取り組みをしてきて、水から緑までさまざまな環境技術を、計画から施工まで幅広く持っています。今、社会科学的なものとして生物多様性をとらえて、人にとって必要だからそのような時代が来るというお話がありました。そのとき世の中はどう変わるのか。建設会社に何が求められるのか。まちづくりや自然再生など、いろいろなものがあると思いますけれども、どんな世の中になるのかということが、まだ今ひとつイメージできていないと個人的には思っています。こういう世の中が来るのでこのような準備をしていますと本当は言いたいところですが、今、我々の持っている技術なり取り組みで十分かどうかと問われると、私自身はどうかなと思っています。
司会 今日は、技術研究所の方が何名かいらっしゃるのですけれども、いかがでしょうか。現時点でパーフェクトな技術というのがあるものなのか、世の中とともに発展していけばいいのではないかという気もするのですけれども。
斉藤 これまで、環境の側面から、技術開発に対する規制がたくさんありました。いろいろな環境規制のもとでそれらをクリアする。例えば工場物件にしても、そこから出る排水が近隣に影響を及ぼさない。その他、悪臭防臭などですね。かつての公害対策の次のステップとして、そのような環境規制という縛りがあって、逆にそれをしっかりクリアできる技術を提供するのが当社の事業範囲でもあったかと思います。
ただ、そのような取り組みが直接、生物多様性という概念的なところまで広がっていくかはよくわかりません。当社のみならずゼネコンというのは昔からそうらしいのですが、お客様の困り事、頼み事があったときにいろいろな専門の人間が集まってそれを解決するというDNAを持っていると思います。当社はいろいろな専門の人間がそろっていますので、お客様からこのような環境をつくってほしいという要求があれば、かなりの確率で提案・実現できると思うのですが。
藤原 日本の場合は国交省ではCASBEEという、生物多様性という要素も含め、快適性などいろいろな要素が入った評価軸があります。そのような面での技術開発というのも流れとしてはあるでしょうね。土木の場合は、持続可能な社会構築、インフラ整備というテーマはあるものの、建設発生土の問題や建設副産物の利用とか、まだそのような段階です。土木の中ではCASBEEに相当するような評価軸がないので、技術がないというわけでは決してないのですが、ある意味まだ混沌とした状況にあると言えます。
そんな中、土木の立場から申し上げますと、広域に環境負荷を生じる事業というのは必ず環境アセスメントを行います。そのような場合、施主がそこの生物多様性の問題について考慮しつつ事業性を評価して、実際の工事計画、設計に移っていくわけですね。そこに我々は当然ビジネスとして参画していくわけですけれども、そのとき武器になるのが、提案していくための裏づけとなる技術を持っていることです。提案した技術を実際に施工という場面を通じて履行していくときにも、きちんと技術を指導できる能力や技術的な裏づけ、そして技術者がいるということが、社会へのアピールになると思うのです。
斉藤 私が思うに、社会の将来像は、地球環境の問題で大きく観点が変わったと言えます。基本的に今までの社会インフラのつくり方は「自然と対決」型ですね。要は自然が120ミリの雨を降らせるなら120ミリをいかに早く流すか、人間にとっての自然の不都合な部分といかに対決して、その自然を克服していくかというものでした。それが今、やはり自然共生やエネルギー、そしてCO2の問題も生物多様性の問題も全部同じだと思いますが、いかに相互関係を考えるか、総合的にとらえられるか、そのような観点で社会資本整備をしていく方向が生まれてきました。ここが大きく価値観の変わってきたポイントだと思います。そのような意味で、私たちも個々のプロジェクトで、そのような対決型でない社会インフラをつくっていくという発想に立つということが基本と考えています。
司会 先ほどのお話を整理させていただくと、今までは規制をクリアしていけばよかったものが、生物多様性になると少しそれとは違うというお話が出てきましたね。
青島 それらとある程度関係すると思うのですけれども、外構に質のよい森をつくれば容積率がアップできるということとか、里山を保全すれば容積率がアップできるといった例がありまして、それの場合、事業者も施工者も生態系もウィンウィンなのですね。
先ほど土木の話がありましたけれども、設計・施工分離というのがあって、生物多様性保全は設計の領分とされているらしいのです。けれども、そうではなくて施工の分野でも生物に取り組めるような枠組みをつくって、そこにゼネコンがもっと進出していけるような機会をつくれれば、もっと進むことができると思いますね。
司会 ありがとうございます。規制というものが、ある意味で生物多様性に対して追い風になってきている部分があるようですね。また、土木と建築の置かれている状況の違いというお話もありました。
私は議論としても両者をわけるとよいかなと思うのですが、なぜかと言うと、土木というのは大ざっぱに言って公共事業系が多いのではないか。公共事業というのは公共目的だから、外部不経済は税金を通じて取り込むからいいという発想があります。一方、例えば御社の(仮称)大手町1-6プロジェクトを見ると、あれはプライベートなビルですね。けれども、あそこにあのような森ができたなら、周りの人たち、特に隣のビルの人は非常にラッキーと言いますか、立派な森が知らない間に勝手にできるわけで、非常に外部経済効果が高いけれども、そのコストはそのビルを持つ人なり会社が負担するという構図になってしまっているわけです。土木のほうは、公共事業体が施主だから、ある程度ルールができるのですけれども、民間で生物多様性豊かな森付きのビルを建てるというようなプランは、コストの割には外部経済で出てしまう部分が多いように思えます。そのあたりを一緒にしてはいけないのかなと思ったのですが、いかがでしょう。
蕪木 いや、そうではありません。取り組みによって認められる容積率のほうが、圧倒的な床を増床できるので経済的にも見合うのです。
藤原 つまり、それは外部不経済を、都市再生特区という制度でもって内部に組み込んでいるのです。ですから、実は土木の事業似たような枠組みになっているのです。
司会 ということは、規制がかなりいい方向に誘導しているのですね。そのようにして都市計画がいい方向に進んできたと。
それからもう一つ思ったのは、従来なら規制をクリアしたらそこまででよかったということですけれども、生物多様性というのはそうではなくて、どこまでやるとどのような効果が出るのかというのは、やってみないとわからないと言いますか、オープンエンド型と言いますか、青天井的なところがあるということです。公害などのリスク対応は、この天井まではい登ればいいというところがあったと思うのですが、それが違った形になっていくと、どのように付加価値をつくっていくのか。最低限の森をつくるところとすばらしい森をつくるところでどういった差が出てくることになるのでしょうか。
藤田 マスコミ的には、生物多様性保全によってどんな効果が出るのか、付加価値が上がるのか、などがとても気になりますね。ある他社プロジェクトでは、潜在、自生していた植物の種子をわざわざ関東ローム層から集めてきて、都市の緑を再生するという取り組みをされているのですが、そこではビルで働く人々にアンケート調査をしています。すると、環境に配慮しているビルがうれしいという声が結構多くて、さらに、どのような環境に配慮していたらうれしいですかという問いに、緑地という答えが上位に来ているのです。緑が豊かで、CASBEEなどの外部評価が高い建築物を求める声が多いということは、最終的にそうした物件の不動産価値も上がるのではないかという見方をされています。
また、里山のほうで言えば、御社が札幌ドームで里山保全をされたときに、森を再生したことで、そこに訪れる人が増えるという効果がありました。これは、生物多様性を保全したことの一つの効果でしょう。今、里山の荒廃は全国あちらこちらで問題になっているので、そのような里山保全が、いずれは住宅地でも工業団地でも、一つの売りになるのではないかと思っています。COP10を契機に、こうした事例はもっと出てくるのではないかと思っているのですけれども。
司会 緑の価値というのが、かなり普通の人にも認識されてきているというお話ですね。一方で、潜在的に緑は価値があると認識されているのですけれども、緑はいいけれども葉っぱは嫌とか、虫は嫌というような話もあります。生物多様性というのは葉っぱも虫も全部を取り込んで一つの循環をつくっているのだけれども、ビジネスとしては「ここだけが欲しい」というケースが多いですね。そのあたりはいかがでしょうか。
岡田 確かに、新宿御苑を見ていただいてもわかりますように、やはり落ち葉はたくさん落ちるし、蚊も出てくるわけですけれども、あそこのいいところは、管理主体として新宿御苑管理事務所さんがおられ、その指導の下に維持管理を行うボランティアの方もおられて、公園の中でビオトープとしても管理する組織ができ上っていることです。そのおかげでビオトープとして一定の環境が維持されているのですけれども、どうしても私たちゼネコンだと、つくって引き渡しておしまいという感じになりがちで、ビオトープとか緑化、緑地などもそうですけれども、生き物が入っている場合、育ったり変わったりしていくスピードが速いので、そのような物件の仕事がそのまま終わっていいのかというのがいつも課題になっていました。まだ理想の域を出ませんけれども、これからは、やはり計画していく段階で、その後の維持管理をできるような仕組みづくりのようなものを一緒にしていかなくてはいけないのではないかと思っております。
司会 ということは、生物多様性が付帯したいろいろな建築構造物の提供というのは、その後の造園サービス付きというビジネスモデルになりますか。
岡田 そうですね。当社がそれをビジネスにするという場合もあるでしょうし、住んでいる人や利用している人が、お仕着せではなくて、実際にここにかかわって、家には庭がないけれどもここで何かいろいろ作業をやりたいと思ってもらえるように計画自体をもっていく必要があると思います。とは言っても、では実際、例えばマンションとか、住む人が後から決まるようなところでどうするのかという問題もあるとは思いますけれども。
司会 消費者と言いますか、ユーザー参加型の仕組みをつくっていくということですね。
できたものを買って、以上おしまいではなくて、自分で参加することも価値だというようにその入居者たちが思ってくれる。そこまでやるといいというような。
岡田 葉っぱが落ちても嫌だと思わず、それで堆肥をつくって、こちらにある畑で使えるとか、そのようなところまで楽しんでもらえるようになれば、まだ理想の域を本当に出ないと思いますけれども、いいと思いますね。
香坂 葉っぱや虫もそうですが、生物多様性の中でも、特に生態系サービスについて、負のサービスもあるという考え方で評価しようとする人も、ごく少数ですけれどもいます。緑があることで迷惑していますという声は負の値を取り得ますね。代表的なのは落ち葉、毛虫、悪臭、犯罪、暗がりなどです。貴社の大手町のプロジェクトでもそうかもしれませんが、あのプロジェクトの場合はかなり入念に計画されているので、自然の再生と負のサービスへの対策の両立する姿をデモする場になりうるでしょう。例えば間接照明の利用で、自然な暗がりなのだけれども犯罪が起きにくいようになっているとか、そうした新しい提案をする場を、それこそ参加型で展開していかれるというのも一つの手かと思います。
また、とても初歩的なところですけれども、最近、旅館の露天風呂などに入ると、「虫にまでしつけが行き届いていませんで、すみません」とか、そのようなユーモラスな看板があったりしますね。そうしたユーモアを交えて、わがままを言う側を教育するぐらいのことはあってもいいかもしれません。消費者は神様なのかもしれませんが、どこかで線を引かずに、どこまでも要望を達成しようとすると、さすがに両立は不可能というものになってしまいます。どのようなところであれば両立できるのか、というところを、参加型で探っていくというのはいいと思いますね。
司会 ここまで、どちらかと言うと消費者というお話でしたが、先ほど、水産漁業者などのビジネスですとか、そのコンフリクトの有無というお話もありました。そのあたりについて何かご意見はありませんか。
高山 私は以前、アマモ場の移植、海草の移植に取り組みました。非常に小さい規模の移植だったからなのかもしれませんが、やはり予期せぬ海草が生えてきたり、違う海草に覆われてしまったりということが何度もあったのです。ですが、現場で船を出してもらっている漁師さんなどに言わせると、もう何十年もその海を見てきた中で、そのような変化は初めてではないし、今年はこれこれの海藻が多いね、という話になるのです。
とは言え、いざ仕事としてアマモ場を移植しますといったときに、環境の変化などで違う種類の海草が入ってきてしまったりということについて、どのように説明すればいいのか、そういった課題があります。現時点では答えを持ち合わせていない、まだわからない部分ですけれども、ビジネスとしてやるということと、本当に世の中の環境を改善していくということのギャップのようなものを自分の中では感じているところです。
司会 ビジネスとして、お金を払ったのだから、アマモ100%の環境にしなくてはならないということが、サービスとして提供できるかと言うと、多分それはできないのですね。お手伝いはできるけれども、やはりそこにいる漁師さんなどが一緒に参加してつくっていくと言いますか、共有していくのが望ましい。生態系保全となると、枠組みはつくれるかもしれないし、やり方をこうしろとは言えるけれども、やはり享受者が参加してコミットしないと維持できないものなのかなと感じたのですけれども。
藤原 今後はおそらく、でき上がって、はいお渡しましたということではないでしょうね。扱うのが生き物ですから、その生き物もある環境の中で関連してまた大きくなる、成長する。例えば今、街路樹などでも、風水害のときのリスクが非常に大きくなっているというような問題もありますね。
また別の例として、アフリカでは植林が非常に熱心ですけれども、植林をしてかなりの森になったら、今度はジャッカルが出てきて人を襲ったということで、逆に反対運動が起きたりしたそうです。しかし、ある時期を乗り越えて、降雨を促すぐらいの森になると、逆に地域の人たちは、そのグループを讃えるようになった。変遷というファクターを評価できるようなところまでいって、なおかつモニタリングができて初めてこうした成果が得られるわけですが、土地の所有者や事業主との間で、つくったらおしまいということではない持続的なビジネスモデルができないと、なかなか難しいだろうと思います。
高橋(正) やはり計画段階では、エンドユーザーが非常に参加しにくい、あるいはそれを除外するような形で進められがちなので、この辺のところは、発注者サイドと我々業界との意見交換会などの場を通じて、もっと声を大きくして訴えていかなくてはと思いますね。そのような形で技術と仕事が結びつく形をつくっていければと考えています。
司会 ありがとうございます。それではここで、まとめではありませんけれども、お一人一言ずつ、今日の場で感じたことですとか、またこれからビジネスに生物多様性をどう生かしていきたいとか、お話しいただけますでしょうか。

意見交換の様子
渡邊 地域NPOさんなど、周りの方々が共同してやっていくという形の中では、ちょうど今、私たちが進めている、富士山南陵におけるフォレストセイバーの取り組みがあります。これは計画段階からNPOさんに入っていただいて、工事中はもちろん、工事が終わった後も10年間、ずっと一緒にやっていくことになっています。ここまでは非常にうまくいっている事例で、私もほとんど満足なのですが、やはり地域の方々と一緒に考えながらやっていくということはそれなりの難しさもあります。どのように調整し、どのような方向に導くのがいいのか、そのコーディネート能力が問われると思うのですね。
今日のテーマである生物多様性という意味では、そこを何かの形で評価できて、こうすればこうなる、このような効果があるということを説明できない限り、なかなかモデルケースにはなり得ないという気がしています。それが今後の課題だと認識しています。
岡田 多様性を失ってしまったときにはじめて、多様性の価値に気付く。世の中で起きるいろいろなリスクは、ある程度予測のつくこともありますけれども、むしろ予測困難なことの方が多いと思います。先ほど「問題がおこったときにいろいろな専門の人間が集まってそれを解決する」というゼネコンのDNAの話がありましたが、予測困難なリスクに対しては、様々な専門家がいる価値が後からわかる場合があります。
生物多様性も、その価値はこれです、とハッキリと言えるようなものではないですけれども、やはり予測困難なリスクに対して、どの生物も何かしら役に立っているのだろうと思いますし、そのようなことを仕事の中で意識していきたいと思います。
高橋(一) 私どもがやっている環境アセスメントは、まさに規制そのものと言えます。今のアセスメントというのは、流れに沿った形のものに合わせながら、いろいろな問題が発生しないような形にしましょうということでやっているのですけれども、今後、生物多様性について、SEA(戦略的環境アセスメント導入ガイドライン)というものを進める方向で環境省が考えている中、そこにうまく我々が持っている戦略アセスメントの技術を使って、多様性を高める形に進めていければいいというのが土木的な観点です。
公共工事の入札には、総合評価制度とかデザインビルドとかいろいろな方式があります。設計・施工の分離と言われてきたのが徐々に、一体的にやるメリットが見直されつつある背景の中で、先ほど管理というのが非常に大事だという話がありましたけれども、例えばPFI(民間資金を活用した公共施設の整備提供)で長い10年、20年管理をしながら、いいものをつくっていくという事例も出てきました。それを建物なり施設、道路でもこれからやるという話がありますから、そのようなところで面的、線的な広がりの中で生物多様性を高められるような提案を進めていきたいと感じました。
青島 生物多様性が社会科学的であるというのは非常に納得できましたし、よかったと思います。一方、自然科学的な面も非常に重要で、サイエンスを使って説明と言いますか、説得できて初めて社会科学がモノになる気がしました。また、私どもがお話しした中で、設計・施工分離の話ですが、業界を通じて発注者サイドに戦略アセスメントを行う上で一番困るのも生物多様性なのです。ですから、そうした戦略アセスメントができるところにやらせるべきで、一律に計画設計・施工分離と言わないでほしいと感じましたね。
蕪木 緑の市場価値や外部性能評価のようなものは行政サイドも事業者もわかってきています。ただ、それが生物多様性と同義かと言うと、ちょっと違いますし、負のサービスという話も出てきます。その辺は、我々も実務を進めながら注意深く、どうなるのかというのを見きわめたいと思っています。大手町の計画では、自然の森の成長遷移過程の一断面の森の状態をつくろうとしていますが、これは当然管理が要るわけです。そこで、プレフォレストという、新しい一つの工事プロセスを試行しています。少し違う場所にそっくりそのままの森をつくってしまうのです。何のためかと言うと、これもご心配されていた異常気象のようなものが今後常態化してくる中で、例えば風をどのようにして森全体で受けとめるか、また、豪雨に対する土壌の貯水性をどうとらえられるか、そのような側面を、将来の木々の成長と、管理方法を同時に見きわめたいということです。非常に新しい試みですが、今後いろいろなプロジェクトで展開できるのではないかと思っております。
藤原 土木の場合、生物多様性をビジネスとどう結びつけていくのか、まだしばらくは格闘が続くと思います。温暖化対策にしても、建築の場合は省エネルギーなどの緩和策で、また長い技術の歴史に裏づけられて、ブラッシュアップされてきていますけれども、土木のほうは適応策なのですね。適応策もなかなか直接にはビジネスになりにくいということで、今日の話を聞いて、生物多様性と温暖化の適応策について向こう何年か格闘が続くという印象を持ちました。
斉藤 今日の議論の中で、私は二つ感じたことがあります。生物多様性というテーマに関してはこの建設業界が活躍すべきフィールドだと思います。また、今後は建物もつくって引き渡しておしまいという世界ではないということで言うと、やはりその後のランニングのところをいかに提案できるか。参加型がベストなのでしょうが、例えばこの前もある小学校の校庭緑化をやったときには、教育の一環としてPTAの方やお子さんも入って刈り芝の掃除などをやられている。そこまでやはり提案していかないと、技術論だけでは済まないと痛感しました。
高山 いろいろな肩書きを抜きにすると、やはり生物や自然については、人として共有できる部分がきっとあるだろうと思っています。その上でいろいろな利害関係や、ビジネスをする上でのさまざまな問題があって、提案したものがすぐに仕事につながらないような状況です。ですが、このようないろいろな技術で今できることというのは、いろいろな皆さんのイメージなり、自然や生物やそのようなものを目で見えるような形で定量的に示すことでさらに話が盛り上がっていって、深い議論につながると思いますので、そのようなところで、また努力していきたいと思いました。
高橋(正) 当社の社員が1万人いる中で、どの程度の社員が生物多様性に関心を持っているかと言えば、率直に申し上げて、それほど多くないだろうと考えています。生態系のピラミッド、その中でそれぞれの層がお互いに交わし合う生態系サービスに対して、我々ゼネコンの人間というのは決して無縁ではない。むしろ積極的にかかわっていく立場にあると気づくことの大切さ。ひょっとしたらそれに今まで気づかずに、何か損失させてきたのではないかということに思い至るといったことが、この分野にそれぞれの社員が深くかかわる第一歩になると考えております。
トーマス・フリードマンさんという人が書いた『グリーン革命』の中に、非常に象徴的なシーンとして、毎朝、男がひげをそるとき、鏡に映るのは誰かと言うと、それは絶滅危惧種だというくだりがあります。気がつかないでいると人間自身が絶滅危惧になってしまう。お互いに支え合うすべをなくしてしまうとそのようなことになるというようなことが書かれていますけれども、まさにその通りです。人間が多過ぎるから、ひょっとしたら自然の論理でそうなってしまうのかもしれませんが、我々にとっても非常に啓発に富んだ言葉だと思っております。以上です。
司会 では、外部からということで藤田さんと香坂先生にお願いしたいと思います。
藤田 これまでも取材を通して多少は知っていたのですけれども、やはり大成建設は資源再生技術やランドスケープや里山保全など、いろいろな技術力、いろいろな人材をお持ちなのだということを改めて感じました。
一つ、もう少しこのようなことをやってみたらどうだろうと感じたのは、環境コミュニケーションの面です。ご説明いただいた大手町の森も、例えば記事にするとどんな見出しになるのだろうと、ついマスコミだから考えてしまいます。何か大手町のこの森にしかできないような環境作りを、一般の人にもわかりやすいキャッチコピーで打ち出すことで、皆さんの取り組みがよく伝わるのではないかと思いました。そのためには、物語性も重要だと思います。その一つにもしかしたら「参加型」というのがあるのかもしれません。先ほどプレフォレストというお話がありましたが、例えば「あなたのつくった森が大手町に来ますよ」と呼びかけて、一般の人にもプレフォレストをつくるところから参加してもらって、2年後には自分たちの育てた森が大手町のど真ん中に来るというような感じでみんなを巻き込んでしまう。さらに参加型イベントで蚊なども退治してもらうとか、常に持続的な仕組みを考えていくというのが重要だと思いました。アニマルパスウェイのような技術もお持ちなのですから、大手町の森でも木と木の間を動物が渡れる仕掛けにして、訪れた人がその様子を樹冠から観察できる階段をつけるのも面白い。そのような、何か大成建設らしさのようなものを、もっとドンと打ち出して、みんなを巻き込むような環境コミュニケーションの仕方をつけ加えると、さらに生物多様性の取り組みに広がりが出てくるのではないでしょうか。
香坂 今日は、高度な技術力というのが一つのキーワードになったのですが、もし海外で何か協力するような事業があるときに、ローテクの部分で非常に簡単な、あるいは貴社では既にあまり使わなくなったようなものでも、役立たないか考えてみてはどうかと思いました。日本企業は見本市などでもハイテクを訴求することが多いのですけれども、ローテクの部分でどのようなことができるのかを模索されるというのもおもしろいのではないかと思います。実際、自治体などがコンクリートできれいにつくった魚道よりも、市民の方がつくった、ある意味雑な、簡単な魚道でも実は生き物は上がってこられますという話ですとか、アニマル・パスウェイの整備も、行政でやったら何千万するものが、貴社を含む企業数社とNPOが一緒にやったらこれだけ低く抑えられたという事例があったと思います。そのようなローテクの部分も大事にしていただけたらと思います。
最後に、何のために見える化をされているのかとか、そのようなことを少し考えていただきたいと思います。これらはやはり、企業経営が持続的になり、あるいはまちづくりでも循環型の都市をつくっていくとかいう大きな目標のためにやっているのであって、どうすればランキングを上げられますとか、どうすれば数値化できますという話に終始し過ぎているような気がしているのですね。多様性というキーワードを一つの切り口にしながら、それに振り回され過ぎないで、さまざまな取り組みを有機的につなぐというようなことを考えてみるきっかけにされてもいいのではないかと思います。
司会 大成建設の皆さんからいただいた意見をまとめますと、今日見せていただいたプレフォレストのお話ですとか、新宿御苑もそうですけれども、生物多様性というのは非常に手間ひまがかかって、また人を巻き込まなければいけないということ。かつそのメリットというのが適応策ということになると施主さんにダイレクトにすぐ返ってこないので、そのあたりを見せるのもいろいろと難しいということ。ビジネスとの目先のコンフリクトがあるということ。そしてみんな結構自分の都合のいいところだけ、緑は欲しいけれども臭いのは嫌というような話とか、いろいろ矛盾があるというご指摘がありました。でもそれは最終的に戦略的アセスメントというところへフォーカスしていくというお話をいただいたかと思います。
それから、生物多様性はゼネコンの主戦場だというお話。それは非常にいいことだと思うので、やはりゼネコンさんは一番生物との現場の接点にいらっしゃるということですから、メリット、デメリットも普通の人より見やすいところにいらっしゃるのではないかと。
そのような中で生物多様性というのを考えてみますと、生物多様性をビジネスに取り込むということが、コミュニティーをつくっていくことにつながっていく。今までは工場もビルも、建築物をつくったら渡して終わっていた。それが今後は森付きビルや、里山付き工場でなくてはいけないというお話をいただいたと思います。建築物に森や里山がくっついていないと、これからのビジネスにならない。さらに、その森や里山というのは実は地域コミュニティーでもあって、長い時間軸で考えていかなければいけないものであり、つくったら終わりで投げ出したらいいものではなく、そこの人にコミットしてもらわなくてはいけない。そのコミュニティーの場を一緒につくっていくという形になると思うのです。
御社では既にそれを実際にやられているわけですが、もっと明示的に、生物多様性をそのような形でビジネスに取り込むのだったら、それに長期的にかかわれるNPOや、後でバトンを渡せる人たちを育てるのも、ゼネコンのお仕事になっていくのかもしれません。今までは、つくって渡すところまでの上流ビジネスをやられていたわけですね。それが今後は、完成後もフォローし、かかわっていくという川下ビジネスと言いますか、そういった部分も生物多様性保全に取り組むことによってビジネスチャンスになってきている。NPOにお願いしてつけ足し的にやるのではなくて、戦略的にそこまでビジネスとして考えられてやっていかれると、より、先ほど言われた矛盾点、問題点が解決できるのではないかと思いました。
今日は大変充実した議論ができたと思います。どうもありがとうございました。
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ご意見をいただいて 私は有識者の皆さんへ大成建設の生物多様性の取組みをご紹介させていただく役目でした。 今回のダイアログでは、ファシリテータを勤められた大和総研の河口さんからは生物多様性が「自然科学的」なものではなく、「社会科学的なものに根ざしている」ことに気付けば、比較的理解し易いということの啓示をいただきました。また、香坂先生からは人類が受けているメリットはスケールと多様性に深くかかわっているが、多様性の劣化が進んだときに何をすれば良いかは依然未解決であること、また藤田さんからは、68億もの人々が生活していくには、もはやこの問題には政治的解決が必要であることと、当社が行っている多様性への配慮を一般にまで広げる環境コミュニケーションの手法の必要性を御教示いただきました。 結局、建設業にとって生物多様性とは、従来経験することが少なかった他業種、他産業、他方面の考え方を持つ人々とのコミュニケーションであると言っても良いのかもしれません。 |