ワーク・ライフ・バランスとダイバーシティ【詳細レポート】

育児休業を取得した男性社員、異なった国の価値観を持つ社員、障害を持ちながら出産・子育てと仕事を両立する女性社員、職域拡大の先頭を切って海外作業所で施工管理に活躍する女性社員など、多様なバックグラウンドを持つ社員が一堂に会し、社外の有識者、社内の役職者とともに、ワーク・ライフ・バランスとダイバーシティに関するダイアログ(意見交換)を行いました。
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河口 真理子 氏 ファシリテーター |
佐藤 博樹 氏 |
<管理本部> |
<人事部> |
<人事部いきいき活躍推進室> |
<国際支店出向中建-大成建築有限責任公司> |
<国際支店土木部土木積算部積算室> |
<東京支店山梨建築作業所> |
<設計本部テクニカルデザイングループ> |
塩入 本日のテーマはダイバーシティということで、いろいろな背景や働き方をしている社員の皆さんに集まってもらいました。自己紹介も兼ねて、これまでの働き方や、現在の状況をお話しください。
甲賀 私の入社は1993年、平成5年に建築本部の担当職として入社しました。今から5年前に支店推薦を受けまして、担当職から専任職に登用されました。さらに一昨年、専任職から総合職への登用試験に応募して、総合職になりました。
仕事内容は、入社のときから、現場で施工管理を行っています。15年間ずっと千葉支店で施工管理業務を行っていました。一昨年、総合職になったのをきっかけに、かねてより希望していた国際支店に異動しました。現在は海外の建築作業所において施工管理を行い、ドバイ、ベトナムを経て、今は中国で業務にあたっています。
ハサン 私はシリアの出身で、1992年、ダマスカス大土木学部を卒業し、シリアとアラブ首長国連邦で土木エンジニアとして働いていました。働きながら経営学位を取得するために勉強していたとき、松下幸之助さんの本を紹介され、その仕事に対する理念と、企業を国際規模に持っていくアイデア、社員にモチベーションを与える理念に興味がわき、日本に行くことを決めました。
1998年に来日し、東北大学と秋田大学で学び、修士学位を取りました。その後2年間、国内の土木会社で働き、また大学に戻って博士学位を取りました。そして2005年、大成建設に契約社員として勤務しはじめました。
最初は、外国人に対する固定観念があったようで、不公平な点もありましたが、求められたもの以上に業務に取り組み、その固定観念をなくすことに努めました。その結果、契約社員から正社員、専任職に登用され、2008年、総合職に登用されました。その間ずっと国際支店の土木部に所属し、主に積算、海外プロジェクト案件の入札にあたる書類の提出と、客先との交渉、プレゼンテーションなどを担当してきました。現在は、手持ちの現場の応援、クレームの整理、あるいは新しいプロジェクトの乗り込み応援にも携わっています。
表 私は2000年に入社して、名古屋、そして千葉、東京支店と変わり、現在山梨の作業所に配属になっています。 今日は、育児休暇を取得した人間として、その話を中心に話させていただきます。結婚しましたのは2005年、千葉支店勤務のときでした。妻は山梨で就職しておりまして、名古屋、千葉と遠距離恋愛を重ねて結婚しました。2006年の1月に子どもができ、当時の作業所長に、「山梨に行きたいです」と申し出たところ、ちょうど空きがあるということで、同年7月に山梨に転勤が決まり、翌8月に子どもが生まれました。妻は出産直後から休みを取っていて、職場復帰に向けて準備していましたが、子どもが生後3、4か月目に股関節が悪いと病院で言われ、保育園に預けるのが難しい状況になってしまいました。そこで、妻が職場復帰できるよう、股関節が治るまでは私が育児休業を取ろうと考えたわけです。そこで作業所長にお願いして、育児休暇を取得した次第です。当初は4か月の予定でしたが、妻が2回目の育児休業を取れたので、2か月後に私が職場復帰しました。
塩入 では次に、設計本部の宮脇さんにお願いします。宮脇さんは聴覚障害をお持ちなので、本日は手話通訳を、人事部の佐藤さんにお願いしています。
宮脇 ご紹介がありましたように、私は耳が聞こえません。現在3人の子どもがいますが、出産後も勤務を続けています。
私が入社したとき、聴覚障害者は、私も含めて4人しかいませんでした。そのうちの3人は同じ職場で、私は違う部署で一人で働いていました。そのためか、聞こえないことがどのようなことか、周囲の人にあまり理解されておらず、コミュニケーションにすごく苦労しました。打ち合わせや会議でも何も分からず、最終的にはまとめた話を教えてもらっていたのですが、私はやはり皆さんと話し合いに参加し、その経過が知りたくてたまりませんでした。また、雑談で、みんな楽しく笑っていても、やはり私には分からなくて、ちょっと孤独な気持ちにもなりました。でも、「聞こえないからできないんだ」とは思われたくなくて、私なりに一生懸命に、どのような仕事でも自分から求めていきました。
その部署から現在の部署に異動してからは、また一からスタートで、最初は仕事もコミュニケーションも何もできない状態でした。ですが、先輩方は、私が質問してもいやがらず、メモを取るなどいろいろ協力してくれました。とても感謝しています。
今はITが進んで、メールでも仕事をやりとりができるようになり、分からないことがあったときも、メールで質問すれば答えてもらえます。ずいぶん変わってきて、良くなったなと思います。
少人数で会話するときは、口で読み取ります。口話(注:口の形で言葉を読み取ること)で見たり、目を見たりして話し合っていますけれども、仕事では、ミスをしないために、すべて筆談かメールでやりとりをしています。
もちろん今でも電話はできませんし、大勢の話し合いにもついていけません。それでも私は、やはり、「障害者だから」と見られたくなくて、会議にも必ず参加させてもらっています。職場には手話のできる人がいなくて、筆談でやりとりをするケースが多いのですが、その様子を見ていただいたおかげなのか、筆談をしてくださる方が増えてきました。
3人の子どもがいながら私がここにいられるのは、やはり会社のおかげです。現在も時間を短くして働いて、朝は保育園に子どもを送り、それから会社に来て、帰りも、学童保育と保育園に迎えに行って、家に帰る、毎日がこの繰り返しです。主人は会社がとても遠くて協力できない状態なので、すべて、今は私が一人でやっています。
残業もできませんし、短い限られた時間で仕事を行うのは、やはり厳しいと思いますが、職場の先輩方とも協力しあって、うまく時間を取れているのではないかと思います。まだまだ未熟で、何もできない状態ですけれども、これからもいろいろ学びながら仕事に励んでいきたいと思います。
塩入 それでは、今までのところを踏まえまして、佐藤先生にお話しいただきたいと思います。
佐藤 私の専門は人事管理で、企業の人材活用を勉強させてもらっています。いくつかある研究テーマの内の一つが、ワーク・ライフ・バランスです。
今回初めて御社の取り組みについての資料を見させていただいて、非常によく取り組まれていると思いました。ワーク・ライフ・バランスと女性活躍推進は、車の両輪と言われますが、これらを、もうすでにセットでやられていますね。女性が働きやすい会社というと、例えば、女性が結婚し子どもを持っても続けられる、つまり勤続年数の長さが指標となりがちです。退職率が低い会社は、外から見ると、女性が働きやすく見えるのですけれども、一方、では、女性が本当に活躍できているかという問題があります。実際に企業に行くと、確かに女性は長く働いているけれども、例えば営業では女性は事務をしていて、基幹的な仕事は男性だけといった例があります。また、管理職は、男性ばかりで女性がいない会社も少なくないのですね。これはワーク・ライフ・バランスの観点からはともかく、やはり、女性活躍推進つまり均等施策が目指すところではないだろうと思うのです。
このような会社の場合、女性が一生懸命に働いても上司が評価してくれない、あるいは、先輩を見てもキャリアに行き止まりが見えるなど、頑張っても先がどうなるかわからないのです。しかし、やはり働き続ける必要がある女性もいる、となると、会社に期待してもしょうがないので、長く勤められるということだけを求めるようになりがちです。で、結局、会社に対しては、育児休業をできるだけ長くとか、短時間勤務をというような要求が出やすくなるのです。そうなると、ますます女性が活躍できなくなっていくという悪循環になり、それはやはりまずいと思うのです。
制度は立派なのだけれども、女性は活躍できないという例が多い中、きちんと勤め続けられるワーク・ライフ・バランス支援の仕組みを作りながら、同時に女性が活躍できる取り組みをされている点が、御社のいいところだと思います。
もう一つ、今度は、女性が活躍できている会社があるとします。女性管理職も多いし、女性がいろいろな仕事で活躍しているけれども、人事に話を伺うと、「うちにも課題があるのです。女性が結婚したり、子どもを持ったりしたら辞めていく。定着率が低いんです」と言う。このような会社は、定着している女性だけ見ると活躍できているけれども、途中でたくさん辞めていく。で、残った女性は、すごく仕事ができる人、スーパーレディです。だから、結婚して、家事・育児もしながら管理職を務めることができるんです。あるいは、親またはご主人が家事・育児をやってくれるなど、極端な言い方ですが、家事・育児にそんなに時間を割かなくても、自分は仕事に打ち込めるような家庭環境があるタイプです。そして残るは、とにかく仕事をしたいので、キャリアをあきらめるよりも、結婚をあきらめるというようなタイプの女性です。もちろんそれらがみな悪いわけではありませんが、大半の女性から見ると、とても自分はやっていけないということになりがちです。先ほどとは逆の例になりますが、女性の活躍という面では、やはりこれも問題なわけです。
結局、ワーク・ライフ・バランスと均等施策、両方を車の両輪として取り組んでいきことが大事です。そのためには何が必要かと言うと、一つは従来の、妻が家事・育児をするという夫婦を想定した、男性はいくらでも残業できるしいつでも転勤できるというような働き方を変えていくことです。男女の均等施策を進めることと、ワーク・ライフ・バランス支援に取り組むことは、表裏一体なのです。
その上で、ワーク・ライフ・バランスとは何かについて、少し申し上げたいと思います。御社の社内向けハンドブック『いきいきと働くために』はよくできていますが、ワーク・ライフ・バランスについて、人事担当者や現場の管理職でさえも誤解が多いのです。一つは、「日本人は、これまで仕事を中心にやってきた。だからワーク・ライフ・バランスというのは、仕事はほどほどにして、それ以外の生活を充実することなんだ」という考え方です。社員へのメッセージでも、よく天秤の絵が出てきます。天秤のように、「今まで仕事10だったのをやめて、両方バランスを取るのだ」というわけです。これらは間違いで、ワーク・ライフ・バランスというのは、決して、仕事をほどほどにして生活を充実するということではありません。多様なライフスタイルの人たちが、それぞれ意欲的に仕事に取り組める環境を用意することなのです。必ずしも労働時間を短くすることが目的ではなくて、メリハリのついた働き方にすることです。残業ゼロということでもありません。
私はいつも、ワーク・ライフ・バランス支援は土台、1階、2階という三つの内容からできているとお話ししています。誤解されているのは、2階にあたる制度部分を充実すればワーク・ライフ・バランス支援ができると考えている会社ですね。育児休業や短時間勤務制度を導入する。それも法定を上回る制度を導入しているのがいい会社だという見方です。私は基本的に、「制度は法定どおりでいい」と言っています。制度という、いわば2階部分を支える土台と1階部分がちゃんとできていれば2階の制度は法定どおりでも十分だと思うのです。

[佐藤博樹先生作成]

塩入 ありがとうございました。それでは、これから意見交換を進めたいと思います。ここから、河口様にモデレーターをお願いします
河口 今、佐藤先生からお話があって、私も皆様のお話を伺って考えることがあったので、それを若干申し上げてから議論をオープンにしたいと思います。
まず、ワーク・ライフ・バランスを考えたときの働き方について、「長時間労働を前提とした働き方があった」というお話がありました。これは私の実感でもあるのですが、そもそも企業における仕事のし方で2種あるように思います。結果を出すためなら、長時間会社にいることで、ロイヤリティーの高さや、自分が有能な社員であるということをアピールする働き方と、5時になったらもういないのだけれども、結果は出ていますねという働き方と2種類あるのですね。で、これまで日本では、前者のほうが高く評価されるという仕組みだった気がするのです。要するに我慢比べという競争になっている。今ある程度の地位になられた方には、能力だけでなく、会社で自分の時間を犠牲にしたことに対するご褒美として出世したと思われる人も結構いると感じます。
それが大きく変わってきたのがなぜか。その外部的な要因を考えると、やはり、日本の高度経済成長期の終わりということがあります。それまではとにかく、物を作れば売れていく、資源はいくらでもあるという時代でした。で、人手は足りない。そんな時代が90年ぐらいまであったわけですが、昨今の環境問題などで、地球は一つしかなくて、CO2を減らさないといけなくて、物をたくさん売っていたら、それでは全員が行き詰まってしまうという中で、今まで右肩上がりできたのが、そうはいかなくなったのだと思うのですね。
そこで、何が求められているかと言うと、みんなが働いて食べていかなければいけないけれども、各人が目一杯までという働き方ではなくて、ワークシェアリングのような発想だとか、時短勤務だとか、まあそこそこ働いて食べていくという方向性です。これ以上物質的に豊かになることは、日本のような会社ではもうマクロ的にはありえないので、根本的に発想を変えなければいけない。
ただただ頑張って、他者を追い抜くために、24時間会社にずっと待機して残業しまくるような働き方をしている会社は、今後のビジネスモデルとして、多分成り立たない。そのようなところにいい人は来ない。そうでない世の中に切り替わっていくということです。ワーク・ライフ・バランスが大事と言われるようになった背景には、そのきっかけ、兆しとして、こうした歴史的なバックグラウンドがあったのではないかと思うのです。
佐藤先生のお話にあった土台部分の重要性ですね。だけれども、今までの上司は、休みを取ると言うと、何かいやな顔をしてしまう。会社に長く居なければいけないというのが、それが働き方だと思ってしまっている。でも、今、会社が求めているのは、効率的にアウトプットを出せる人材です。それができるならば、どのような人でもいい。外国の方でもいいし、子育てしている人が自宅からパソコンで作った資料を送ってくれてもいいのだという価値観に変わってきている。それが広がると、その背後にある働き方も変わっていくでしょう。
宮脇さんのお話にもあったように、ITが進むと、今までは筆談だったのが、メールでやりとりすると非常にやりやすくなるとかという、そんな変化も起きていますね。
土台、1階、2階と三つの中身があるワーク・ライフ・バランスで、佐藤先生が、「2階部分だけあるのが最悪」とおっしゃいました。そのような会社は、実際たくさんあるのですが、なぜ2階部分だけ分厚くなるかと言うと、2階部分の整備は人事の仕事なので、人事部さえ頑張ればできるのです。ところが、土台部分と1階部分は、全社員、上から下までの意識を変えなければいけないから、そんなに簡単にはできない。だから、どうしても2階部分が分厚くなりがちなのですね。ただ、2階部分はやったけれども、それが実質的に機能していないなというところで、「土台も1階も大事だね」ということに気がつきはじめているというような状況です。
今日は多様な働き方をされている社員の皆さんのお話を伺って、それぞれ自分の職場で戦ってきて、今このポジションを作られてきたことを感じました。周りが最初はなかなか理解してくれなかったのを、みんなが協力してくれるような土台を、状況を作られた。もちろん、そのベースには、会社としてそのような人を受け入れるということがあったわけですけれども、お一人お一人が努力して、外国人に対する偏見とか、障害者の人とどう接すればいいのかというやり方は、現場で努力をされて積み上げていく中で蓄積されて初めて、土台や1階に実が伴っていくのだと思います。外国の人にはこういう働き方ができる。耳が聞こえなくても、またお子さんがいてもこんなに働ける。そのような情報が伝われば、じゃあ自分もこういう働き方がありかなというような考え方が広まっていくのではないでしょうか。
今日は、ワーク・ライフ・バランスということにフォーカスされていますし、ダイバーシティという面では女性にフォーカスされているのですけれども、それだけではない多様性のある社員の方が来られているので、できればそちらにも触れていきたいなと思います。
それから、最後に1点、女性管理職が少ないということで、女性は管理職になりたがらないとか、重要な仕事をさせないとか、過去はそうだったのですけれども、私も、部長というのをやってみて、管理職というのは、意外と女性に向いていると感じています。管理職の仕事には同時並行の要素が多いのですが、主婦の仕事は種々雑多なものが振り込んできていて、それをうまい具合にマネージするという面で、管理職の仕事と共通点が多いと思うのですね。そして実際やってみると、意外といいのです。そのようなメッセージというのも、だんだん出していただくといいですね。
佐藤 男性・女性に特性があるという話は、ダイバーシティの議論と重なってくる部分ですね。
河口 さて、ワーク・ライフ・バランスについては、宮脇さんと表さんのお話に関心を持ちました。3人のお子さんを、産んで、戻って、産んで、また戻ってしている中で、職場の協力があるということですけれども、具体的にどうやってワーク・ライフ・バランスを保っているのかな、ということが一つ。また、表さんは、上司に願い出て山梨の作業所に異動し、さらに「休みます」と言ってしまったわけですね。その状況で、周りがどのように受け止めたかを伺いたいのですけれども。
表 共働きで、家事を分担して、朝、私が洗濯物を干して、子どもの朝ごはん、お弁当を作って、妻が保育園に連れていくという状況ですね。子どもをあまり疲れさせないようにと医者から言われておりまして、一時はこれで仕事が続けられるのかな、というところまで考えたのですけれども、今は、上司にお願いして、「朝、ちょっと遅れます」とか、「夕方、早く帰りますが、仕事を持ち帰ってしっかり成果も出しますので」という報告をしながらやっているのが現状です。
工事現場は、朝8時朝礼で6時定時と決まっていまして、十分仕事ができないという面では負い目を感じていまして、それを払しょくすべく頑張っています。
一方、共働きという部分で、よく「なぜ、共働きをやめないんだ」と言われるのですね。妻は学芸員の仕事をしているのですけれども、学芸員の職は狭き門なので、一生懸命積み上げてきた成果を、簡単には手放したくないようです。私などは、会社を辞めて、地元に就職してもいいとまで覚悟を決めれば、何でもできるという思いもありました。そのような思いで、会社に育児休暇を希望して、勤務地を変えていただいたりしてきたわけです。
社会も会社も、だんだん変わってきているのでしょうけれども、当時はイレギュラー的なものでしたので、その時点では、非常に覚悟の必要な判断だったと思います。
河口 周りの男性社員からも、育児休暇の取得について、相談を受けたりするのですか。それともあまりまだ、社内で知られていないのでしょうか?。
塩入 彼の場合は、取得第1号だったこともありまして、積極的にイントラネットの中で情報を開示しました。すると、非常に興味を示す社員がいまして、そのあと、続いて出てきたのは確かです。
河口 宮脇さんはいかがですか。
宮脇 夫より私のほうが先に家に帰り、ご飯も私が作りますが、夫が帰宅したあとは、夫に子どもを世話してもらっているので、自分の時間も取れます。朝も、夫のほうが早く出勤しますが、夫に家族みんなの分もご飯を用意してもらっているので、その間に、私は子どもの着替えとか、学校の準備とかをしています。このように、お互いに夫婦で協力をしていかないと、やはりここまでやってこられなかったかなと思っています。
河口 産休・育休を取られて、戻って、また取られて、戻ってということをされているわけですね。その都度、問題なく復帰できて、次の休みも取れたのでしょうか。一人目はともかく、二人目とか、三人目は難しくありませんでしたか。
宮脇 「どうしても辞めてください」と言われたら、私も辞めただろうと思いますが、そんなことはありませんでしたので、「仕事を続けたい」とアピールしながら、ここまでやってきました。やはり、会社の制度が良くなってきたので、私も3回も育児休暇を取れたのだと思っています。
河口 戻ってきてから、復帰のあとの仕事は問題なかったですか。
宮脇 3回も取ったのですが、職場は一緒だったので仕事内容も大きくは変わっていませんでした。ただ、2年間お休みしたこともあって、その間に仕事の仕方にちょっと変わった部分があり、ついていけなかったこともありました。でもそれは、頑張って解決するしかないと思っています。
河口 外から見ても、いい会社だなと思いますね。障害を持ちながら働かれるというだけでも大変なのに、さらに、お子さんを育てるという、一方だけでもすごく大変なことを、両方やられている方がいて、ちゃんと職場に復帰されている。制度を整備された甲斐があったのではないでしょうか。
塩入 今まで3回採っている社員は8名います。期間は人によってバラバラですが、職場を2年離れると、やはり復帰のときは大変だったかなと思います。特に、最近はITを含め業務のシステムもどんどん変化していますからなおさらです。しかし、ここ数年のデータでは、育休を取っている期間中に辞めたり、復帰して数年の間に辞めたりしている社員というのは、誰もいません。これは会社としてのサポートや、周囲の理解が進んできたのではないのかなと思います。
堀之内 佐藤先生が言われる、休業中の戦力ダウンは、会社にとっても課題です。労務管理の創始者と言われるF・W・テイラーの科学的管理法で言う分業とか標準化という考え方、概念それ自体をもうそろそろ変えないといけないのではないか。これまで当社では、個人で仕事を進めることが多かったのですが、やはり、チームで仕事をすることによって、制約のある人に対する支援をする体制を取らないといけないかなと思っています。
佐藤 これからは職場で育児休業を取ったり短時間勤務をしたりする人が出てくるが当然という想定で考えることだと思いますね。そのための備えをあらかじめ行っておくことが大切です。また、誰かが抜けたら、その仕事をやってもらう人の能力開発の機会にするとか、休業取得などをプラスに変えるような取り組みを行っていくしかないのではないかと考えています。
リスク管理の面から言えば、育児休業というのは、事前に分かるのですからそんなに難しい話ではありません。ですが例えば、介護は事前に分からないですね。育児休業に備えた職場作りをしておくということは、つまりリスク管理ができている職場になります。それは危機対応の面でプラスになるのではないかなと思うのです。
堀之内 F・W・テイラーのあとに、レスリスバーガーとメイヨーのホーソン実験があって、そこから人間関係論が出てきました。私も最初は驚いたのですが、最近では、セル方式という生産方法が、流れ作業のベルトコンベアよりも圧倒的に時間労働生産性が高いという話がありますね。そこで例えば、R&Dや営業でチーム制のようなものを作れば、人にとっても組織にとっても、生産性が上がっていくのではないか。そのような仕組みを作っていきたいと考えているところです。
河口 人間関係論と言いますと、会社だけの話ではなくて、例えばソーシャル・キャピタルという考え方がありますね。コミュニティーでも、信頼関係があるところでは子どもの事故が少ないとか、犯罪率も低いという話です。同様に、職場でもチームでお互いの信頼関係のようなものがあったほうが、最終的なアウトプットという面で、生産性が高いということなのかなと思います。
一方、育休を取った人のメリットとして、「(子どもの病気などで)突然休むというようなことのある反面、時間管理やリスク管理がうまくなるから、人材能力が高くなる」という議論があるのですけれども、そのあたりについては、実際職場に戻ってきた人などを見ていて、いかがでしょうか。
佐藤 子育て中には、時間管理をきちんとやるのは確かですね。けれども仕事の能力という話になると、それは半分正しくて、半分正しくない。前提として、仕事に意欲的に取り組もうと思っていないとだめなのですね。もちろん、多くの人が、ちゃんといい仕事をしたいと思っている。保育園の送り迎えがあるとか、いつ熱を出すかというような時間制約がある中でも、例えば会議がある日が分かっていれば、少し前から準備しておくとか、早く帰る日については、その日は残業しなくていいように準備するとか、考えますね。そのことがすごく大事で、制約がなくて、いつでも残業できると思っていると、仕事の仕方をあまり見直さないのですね。ただ、一方で、仕事はほどほどでいいという人が、中に混ざっていることも事実です。ここがまだ難しい。こういう意識の人たちがいるということも、ある意味で会社の責任なのですね。ワーク・ライフ・バランス支援の前提として、社員には仕事に一生懸命取り組もうと思ってもらわないといけないわけです。ワーク・ライフ・バランス支援だけではなくて、仕事に意欲的に取り組める環境整備もまた必要だ、という先ほどの話です。
塩入 私自身が身近で感じるのは、例えば、時短で働いている人たちとか、育休から復帰した人たちの働き方を見ていると、時間的制約があるので、とにかくその時間集中して仕事をしています。そこは見習うべき点だなと思うのですね。多くの男性はやはり長時間労働を前提として働いているところがあるので、ちょっと息抜きもしながら、長く働いているなという気がします。ただ、残念ながら、やはり制度を利用してとそこそこ働ければいいやという例も、ゼロではないとは思います。
河口 実際にそのような部下が、休みを取って戻ってきて、生産性が上がったかなとか、それに対する上司の評価というのは、全体的にどのような感じなのですか。管理職として、そのような部下が職場にいることというのは、社内的にどのようなコンセンサスがあるのですか。
塩入 上司の評価という点では、休んでいる期間の評価はしないという制度ができましたけれども、それを知らない上司もいます。そこで、そのようなシステムがあることと、「時間で評価するのではなく、できたもので評価してください」という話を復帰時の三者面談のときにしています。ただし、実際にアウトプットが求めるレベルまで達していないとき、上司が「これは時間の制約があるからできないんだな」と判断をするのも、ある程度仕方がないことかなとは思っています。
佐藤 そこが難しい。短時間勤務だから大変だろうからとか、子育て中だから大変だろうと配慮して、ほどほどの仕事配分をしたら、また問題になるのですね。だから、育休を取ったり短時間勤務をしたりする人に効率的に働いてもらうには、他方で、「短時間勤務でも、育児休業から復帰して子育て中でも、将来このようなことを期待していますよ」というメッセージを出して、本人もその中で頑張ろうと思ってもらうとうまく行くのですね。ですから、やはり、管理職の対応というのはすごく大事で、一見優しそうというだけの対応は良くないのです。
河口 会社として、コストをかけて、ワーク・ライフ・バランスの施策を進めているわけですから、これは戻ってきた人を雇い続けたほうが会社にとってプラスだという戦略ですね。長期的に見れば、休んで戻ってきても、そんなに生産性が落ちないと言いますか、トータルでは良いのだというメッセージを、会社として発していく必要があるのではないでしょうか。
佐藤 育休を取っても「早く復帰したいなあ」と思ってもらわないといけないのですね。復帰したあとも頑張ろうと、子育て中にも思ってもらうような仕事にしないと、会社がもちません。
河口 ここで、海外勤務をされている甲賀さんに伺わせてください。ドバイとベトナムと中国、1年で3個所というのは結構な数ですね。
甲賀 私は、16年前に当社に入りまして、その入社したころと今とでは、ずいぶん変わったな、と思います。正直、例えば16年前なら、今日のような場もなかったと思います。当時は、現場は女が入って来るところではないという雰囲気があったのですが、私が入社以来所属していた千葉支店に関しては、上司が皆さん、すごく理解がある方で恵まれていたと思います。
表さんと私は、千葉支店で1年間ほど同じ現場にいたことがあります。大規模なマンションのプロジェクトの、合計で6棟建てる工事でして、同期が6人いました。そこで作業所長が一人1棟を担当させたのですね。その中の一つの棟に私もちゃんと加えてもらっていました。その当時まだ私は担当職だったのですけれども、同じように見ていただいて、同じ仕事をさせてもらった。
ただ一方では、担当職という理由で、自分が受けたい研修の名簿から漏れたり、研修が受けられなかったり、また、登用というお話があったとしても、なかなか合格しないといったこともありました。正直言いますと、そこでモチベーションはかなり下がるのですけれども、それでも私が会社に入った目的は、大きな、地図に残る建物を造ることでしたから、とにかくいい建物を造っていこうという、それだけの信念でずっとやってきました。そんな中、制度が変わって、専任職を経て総合職になることができたのです。以前から海外で働きたいという希望は持っていたのですが、担当職という理由で、なかなか配属してもらえませんでした。けれども、総合職になったのだから、海外の現場で働きたいという意志を貫き通したいと考えて、国際支店に異動の希望を出しました。で、今、海外で働いているという状況です。
河口 私の職場でも、異動の希望は、「当たらぬも八卦」のような感じがありますが、こちらでは皆さん、結構、希望が通っていらっしゃるなと感じますね。
松田 当社では結果を大事にしています。想定される結果がいいものであれば、やってみようと言う考え方ですね。あえて制度とか、それで縛る必要はあまりないと思いますね。
佐藤 担当職だからといって、担当職の仕事しかやらせていないと、異動が難しくなるということです。担当職だけれども、担当職の仕事を越えたところをやらせないと、いつまでも異動できないのですね。だから、社員区分をしながらも、次の仕事に移りたいという人には、少しずつでもそれを越えた仕事が与えられるようにしないとだめなのです。また一方では、区分されているのだから、上の仕事をしたくないという人もいます。「私は担当職なんだから」という人もいれば、「そんなことを上司に言われたくない」という人もいるので、そこが難しいのですね。
松田 それは、男性と女性という問題と同じような問題ですね。女性だからこれだというように決めてしまうから、もう伸びないのと似ている。そこで、男性の仕事もやってもらうようにしたら、伸びていく人も出てくる。
河口 制度を変えて、担当職も総合職に移りやすくなったということですが、今までは移れなかったということなのでしょうか。
塩入 その時々に応じて、この人材は総合職にふさわしいと思う社員は登用していましたけれども、女性の場合、施工管理や現場監督をやっていたとしても、本当に男性と同じようにやっていけるのかという思いがあったかもしれません。甲賀さんの場合、身をもってそのような働き方をしてきたことで、総合職に移れたのだと思います。
佐藤 所属部署の管理者の方が、そういう環境を与えたからできたのでしょうね。
河口 そのような形であとに続く、一般職的な仕事から総合職になりたいという人は増えているのでしょうか。
塩入 ええ。増えています。'06年から'09年にかけて、総合職の女性が26名から56名に増えたのですけれども、26名は、元々登用などで総合職になっていた人です。増えた30名の中には、新たに登用になった人間もいますし、総合職の新入社員で入ってきた人もいますね。
佐藤 問題は、15年後この世代が課長になるころにもこの比率を維持できるかですね。
河口 世の中的に、優秀な男性社員を囲い込むということが難しくなっていますね。それは人材マーケットの中で、優秀さという順番から取ったら、男性とか女性とか、外国人とか日本人とか、そのようなぜいたくは言っていられなくなるでしょう。
佐藤 ただ、これまでの25年間見ると、ほとんど変化なかったのですよ。途中でみんな辞めてしまったからですね。
河口 今までは、子育てとか、夫の転勤とかあったのでしょうね。これからは、なかなか辞めなくなっていくので、変わっていくのではないかな、というところですね。

河口 また、ハサンさんの経歴も非常にユニークで、つくづくいろいろな経歴の方がいらっしゃるなと思います。ハサンさんも契約社員で入られ、それから結構苦労されて周りの意識を変えていったということなのですけれども、そのあたりのお話をもう少し伺えますか。
ハサン 日本で働いてきて感じたことは、ダイバーシティの実現自体は、非常に簡単だということです。制度を変えて、トップの「これからは外国人を入れるよ」という一言があれば、もう、できてしまう。しかし、それだけですと、ダイバーシティのためのダイバーシティになってしまいます。
当社でも、今では制度としてのダイバーシティは達成されました。けれども、制度だけですと、外国人は何パーセントといった、よくあるパンフレット上の数字にしかならないのですね。本当のダイバーシティは、特に外国人に対するダイバーシティとは、別の、もっと大きな目標につながらないと、やはりダイバーシティのためのダイバーシティになってしまうと思うのです。
これは私の意見ですが、会社の一番の使命は、事業を促進して利益を出すことだと思います。その利益の一部を社会に戻すのがCSRですね。CSRの中には、ダイバーシティもありますし、ワーク・ライフ・バランス、いろいろありますが、この一番の使命を怠っていると、すべて意味がなくなります。どの会社も銀行からお金を借りて事業を行いますが、そのお金は元々、社会のお金です。それを使いながら、利益を出せず、赤字に陥ると、社会に対する責任は果たせなくなります。ダイバーシティも利益を出すという目標につながらなければ、単なる数字合わせに終わってしまいます。
今、多くの会社が、日本の大学を卒業した新卒の外国人を取り入れようとしています。その目的は、例えば製品メーカーが外国で工場を設立して、その工場で、日本の品質管理を守りたいが、同時に、そこで働いている人とのコミュニケーションをもっと取りたいという理由によるものです。しかし、私から見ると、彼らは日本人と変わりません。17歳や18歳で日本に来て、6~8年間勉強し、日本の会社で働くわけで、母国も含めて全く海外での経験がありません。確かに、国籍は日本人ではありませんが、それでもダイバーシティと言えるのかなと思うのですね。
このような人材は、製品メーカーには役に立つのです。彼らは母国語を持っている一方で、日本のやり方、品質の守り方と、非常になじみがあるからですね。しかし、ほかの業種は、当社もそうかもしれませんけれども、海外で日本のやり方が通用しないという問題に遭遇しているのです。日本のやり方では、利益を出せない。だとすると、新卒の外国人を採用して結果は出るのかと、私は疑問を持っています。
例えば中途採用して、それに対応した政策を進めれば、その採用した外国人は、海外の経験や海外でのやり方を知っているので、自分が持っている能力を使って会社の利益に貢献できます。もちろん、それを発揮できる環境が整っているかということも、非常に重要です。それが整っていなければ、それこそダイバーシティを誇るだけの数字だけが増えて、何年間もの間、本人たちは何もできないという状況になってしまう可能性もあります。
河口 数字のつじつま合わせで、外国の人がいても、考え方とか文化的なバックグラウンドが日本人と同じだったら、その人を雇った意味があるのか、それは本当の意味でのダイバーシティとは言えないというお話ですね。例えばシリアの人だったら、シリアの考え方とか価値観とかビジネスのやり方を知っている人を社内に入れることによって、ビジネスがやりやすくなるというようなメリットがあるはずだと。ところが、シリアから、高校生ぐらいのときに日本に来て、ずっと日本にいたら、日本人の発想になってしまっているから、その人にいくらシリア的な価値観やビジネスのスタイルを求めても分からないとというお話ですね。
これが、性別のダイバーシティだったら、ある程度数字で見せることによって、その形が見える話なのですが、ハサンさんのおっしゃっている、内面の価値観だとか文化的なバックグラウンドだとか、仕事のやり方だとか、そのような意味でのダイバーシティでは、外国籍の人を取ればいいという問題ではないということですね。
ハサン そうですね。一方では、社内の規定ややり方に沿ったスタイルを身につけないと受け入れてもらえないので、職場では、自分が持っている違ったやり方、違った方法、違った考え方を、どのように、対立せずに出していけるか、活かしていけるが大事になってきます。それは、私自身が遭遇した問題ですし、これから外国人に対するダイバーシティを目指す企業は、その点を考えないと、単に、入れたから何かが変わるということはありえない。私はそう思いますね。
河口 ハサンさんが働かれている国際支店には、外国の方もそれなりにいらっしゃると思うのと、その上司の方も海外でお仕事をされていたりして、経験もあるのではないかと思うのですが、いろいろな事例の多様な経験は、まだなかなか活かせていませんか。
ハサン まずは社内の、あるいは日本企業の特殊な文化と言いますか、それを理解しないと、なかなか受け入れてもらえないですね。これまでも、何人もの外国人がいましたが、ほとんどは海外の現場で働いて、日本で働いた経験のない人でした。あるいは、日本で勉強して卒業して、海外での勤務経験のない人です。前者は会社にとっては取り入れにくく、後者は取り入れやすいけれども、役に立たない。このどちらかでした。
そこで、私が来て初めて、これらが両立できるのではないかという道筋が見えてきたのではないかと思います。今までは、海外の経験を持っている人は、海外のやり方しかできないし、会社にとってあまり役に立たないと思われていた。だから、本当に責任を持つ立場までいけないケースが多かったのです。やはり、まず社内の文化を理解する。その上で、自分の意見ややり方や見方を活かして事業を促進するということが、私にとっても、一番大切で難しいという気がしています。
河口 「日本本来スタイルはこうだけど、シリアでは別のスタイルでやってたから、中近東でやるんだったら、こういうやり方がいいんじゃないの?」と言ったときに、それがある程度取り入れられるような風土、違うものの見方が出てきたときに柔軟に検討してくれるような風土になるといいですね。最初から「いや、うちのスタイルは違うから」と排除してしまったら、それはダイバーシティでも何でもなくなってしまう。違いをきちんと吟味する、まずちゃんと受け入れるというのが、ダイバーシティに一番求めたい部分ですね。
河口 甲賀さんも、海外でお仕事をされていますが、いろいろな国での現場の作業の進め方だとか、違う国の方と一緒に仕事をされてみていかがですか。
甲賀 国が違えばそれぞれ、仕事の進め方や考え方、習慣なども違いますから、それらすべてを踏まえた上で現場管理、現場運営をしていかなければなりません。それが国際プロジェクトの難しさでもあるかと思います。
私は、ハサンさんとは違って、国内の現場でずっとやってきて、それから、海外に出ました。今海外で現場を実際どうしているかというと、国内の現場とはやり方が違う中で、自分の今までの経験をどう活かしていけるかな、というのを日々考えながらやっているところです。
どこの国に行っても、すごく興味深いのは、私が施工管理、現場監督の人間だよ、という紹介をされると、相手は最初びっくりするのですけれども、すぐに、「現場に女性がいても、全然不思議じゃないね」と、そのような感じで見てもらえることです。ところが、中国に行ったときですけれども、日系の企業のお客さんに紹介をしていただくときに、私の上司が、お客さんに、「日本の大成建設から来た社員です。総合職です。現場監督です」と言い、私が「甲賀といいます」と自己紹介をしているのに、お客さんは私に「中国の方ですか?」と言うのです。それは中国がどうだとかいう意味ではなく日本人の意識として、現場に女性なんていないだろうという意識がまだまだあるのだなと感じた次第です。
当社は、これだけ制度を作ってやっていますから、私がどこに行っても、もう驚かれはしないのですけれども、海外に行くと、逆に日本にはまだそのような意識があるのだなと思いました。
河口 日本人の意識が、そこで分かってしまったと感じですね。国内ならまだしも、海外まで出て、女性でというのは、多分二つぐらいハードルが高いだろうなということだったのですかね。
甲賀 実は今回、直属上司に、出張許可をもらうときに「あなたがこういう会に出るのは大事なことなんだよ」と言われて送り出されてきました。こうした機会を通じて、少しずつ意識を変えていくことができればと思います。
河口 「女性で現場監督。しかも中国でやっている」という事実が知られることで、会社のイメージが確かに変わりますね。工事現場というのは普通の人はあまり見ないということもあるのだと思うのですが、そこには、「男しかいないでしょ」というような先入観がある。社外の人はびっくりするでしょうし、女性でも差別なくやっているというのは、いいイメージになると思います。「地図に残る仕事をやりたい」と言って、それを実現できているという、いい事例ですね。
堀之内 日本の民間企業は主たる生計者が、いつでも残業できて、どこでも転勤できるという前提でやってきて、この主たる生計者は、圧倒的に男をイメージしているという、まだそういう風土があると思います。人事部でも、学生の採用面接も今まで男性社員ばかりでやっていたのです けれども、もう女性社員を面接官に入れないといけないかな、と思っているところです。性差というのではないのでしょうけれども、やはり、いろいろな目で見るようにしないといけないという考え方ですね。
佐藤 それはいいですね。
河口 ダイバーシティということで、私なども今まで、「どのくらいの外国籍の方が管理職、マネージメントにいますか?」というところを見てきましたが、本質的な意味で、その人が、ダイバースな価値観を会社に持ち込んで、仕事上にそれを活かしているかという観点の話は、今まで聞いたことがありませんでした。「女性の感性を」というのはよく聞くのですけれども、それは女性だったら、顔を見たら女性だと分かるわけですが、非常に重要な、内面とか価値観というのは、目に見えないから難しいのですね。
松田 施策を考えるときに、単に数字を追いかけるのではなくて、それをやることによって何の効果があるのかということを常に意識しながらやっていくということが、業績につながってくるので、今日もいい考えを聞かせていただいたと思っています。
河口 甲賀さんは、海外に行かれて、何か悩んでいらっしゃいますか? やはり、日本のやり方でやろうとすると、現地の人はやり方が違うとか、価値観の部分でコンフリクトのようなものはあるのですか。
甲賀 違うことが悩みではないのです。国際支店の上司や経験者の方からも、違って当たり前なのだと教わっています。なぜ大成建設が海外に出て、このプロジェクトをやっているのか。働く人はその国の人です。そこで、日本のやり方をそのままやっていたら、絶対にうまくいかないのですね。どうすれば、彼らが働きやすい環境を作れるかといったことを考えながら進めているところです。
佐藤 海外展開すると、いろいろな日本と違う経験をするわけですね。それをうまく日本に戻して活かせれば、それも一つの企業のダイバーシティ推進だと思います。
甲賀 私が国際支店の建築工事の施工管理で、女性で初めて現場に出たのですが、私より若い世代で、女性の施工管理、現場監督は大勢いるので、そのような人たちが、今後、どんどん海外に出ていけば、いろいろな経験も積んで、もっと会社の利益に直結していけるのではないかなと思います。
河口 ところで、ハサンさんのようなバックグラウンドをお持ちの外国の方が、中途採用といった形で日本で採用されるケースもだんだん増えているのですか。
ハサン 中途でもありますし、新卒もどんどん取り入れようという方針ですね。今までも、国際支店には多くの外国人がいたのですが、多くは契約社員で、会社の組織の中で正社員のポジションに就けない人が大半でした。これから本当の意味で組織の中に入ってくる人は増えてくるのですけれども、やはり、「意識」というキーワードが一番重要ですね。固定観念とか、外国人だから仕事を任せられないとかいう意識を変えなければと思います。
私が、一番の問題と考えているのは、日本では終身雇用が非常に浸透していて、終身雇用に則った働き方をしていない人は、あまり信頼されないことです。私もこの会社に入って、入社時と専任職、総合職登用の計3回、面接を受けたのですけれども、いつも一番大きな質問は、「あなたは、この会社で退職まで働けるか」ということでした。日本以外では、大企業も含めて、それらの会社で働いている人たちが5年か6年間しか働いていなくても、会社としては事業としても成り立っているし、ちゃんと業績も出しているのですね。だからこれからは日本の、特にトップの人は、この意識を変えなければいけないと思います。在職している期間にちゃんとした責任を与えて、ちゃんとした結果が出れば、終身雇用にこだわる必要はないのではないでしょうか。また、総合職とか正社員にならないと責任を与えられないというのはどうなんだろうとも感じます。
佐藤 人事管理で言うと、どの会社もコアの人は長期なのです。アメリカでもそうです。長期的な人材育成が必要なのですね。ただ、そのようなキャリアでないと仕事の配分が違うというのは、変えないといけないと思いますね。
特に外国籍の人は、初めは、「3年、5年勤めよう」と考えることが多いです。そして勤め続ける中で「じゃあ、もっと長くいよう」と思うわけです。だから、始めから総合職で採用する外国籍の人がいてもいいですが、同時に初めは3年、5年の契約社員としての選択肢も必要だと思います。それで、しばらくはそれを更新していく選択もできるし、どこかから、またはどこかへ移れるように。というようなことも可能にする必要があるかなと感じています。
それともう一つ、これから仕事は、契約社員でも、能力に応じた仕事を任せらるようにしていく必要があるかなと思うのです。総合職にならないと責任ある仕事に就けない、これは変えないといけないと思っています。ただ、総合職の人を全部なくしてしまって、全部、有期契約の社員で会社がもつかというと、それには私は否定的です。その一方で、有期契約の人でも、実力があれば仕事を任せるというようにはしていったほうがいいと思うのです。
河口 ここまでたくさんのお話を伺い、現状が見えてきたかと思いますが、それでは、これからどうしていけばいいのかということで、お集まりの社員の方から、こんなことを期待したいとか、ここが困っているとか、このしたらもっと良くなるのではないかとか、自ら現場で悩まれていることで、「こうしたら」というような、生産的な提案をいただきたいです。それに対して会社の方からは、こう考えていくというレスポンスをいただきながら、佐藤先生にも、途中でコメント入れていただいて、まとめていきたいと思います。では、表さんからお願いできますか。
表 建築現場の現場監督という立場では、多種多様な規模の建設現場、多種多様な工種を担当するのですが、建築という所属にこだわらず、設備の勉強を始めました。きっかけは、育児休暇中に何をしようか、ということでした。本来、建築社員は建築しか見ないですし、設備社員は設備しか見ないのですけれども、今、総合的な改修工事や、あちこちのアフターサービスを見るにあたって、建築社員も設備を見ないといけないような状況になってきています。そうしたニーズに応えるべく、設備の勉強もしなくてはということで、設備社員が取るような資格を、すべて取ったのです。その中で、「こいつは何を聞いても分かるな」ということを、上司にも認識してもらい、信頼をいただき、また業務を効率化させる。お客様のニーズに具体的に応えて利益を出せるような形で1歩2歩と踏み出しています。
先ほど出た、休んだ社員の代わりといった話については、今、東京支店の西東京地区の中に社員の交流というのがあって、誰が欠けてもフォローできるような仕組みは、去年から始まっています。
ただ、建築、設備、設計など縦型でばっさりやられてしまうと、代わりが利かないという面もありますので、社員の能力を高めるという意味でも、私が取り組んだような、幅広い資格の取得のようなものを、会社としてもやってみてはいかがかなと思っています。
河口 表さんが設備の資格を取ろうと思ったのは、育休に入って、時間ができたからですか。それとも、前から思っていたけれども、ゆとりがなくて、これを機にということですか。
表 たまたま会社から「一つ資格を取りなさい」と要請がありましたので、二つ受験しました。設備の資格が取れたので、今年は簿記を考えています。簿記を取ると会計も分かりますので、会社がやっていることを理解できれば、作業所としてどうあるべきかが見えるのではないかと思っています。休んでいるという負い目を払しょくしながら、自分としても何をやったというアピールになるかなと思いまして、子どもの世話や家事を終えたあとの自分の時間に勉強した、ということです。
河口 いろいろと、ものを考え直すきっかけやモチベーションになったわけですね。休んでしまったという負い目が、ある意味でモチベーションになったのと、ちょっと時間的に、違う意識でものが見られるようになった。
表 時間を効率よく活かせるように、今も共働きで時間を制約されていますけれども、その中で成果を上げられるような形でやろう、というのを、日々考えるようになりましたね。
河口 では、宮脇さん、いかがですか。障害者として、そしてワーキングマザーとして、会社に提言といいますか、こうしてくれたらいいのではないか、という提案があればお願いします。
宮脇 打ち合わせの結果を教えてもらっても、その経過が分からない限り、私には内容がなかなか分かりません。だから、「分かってないからできないんだね」と、今でも思われてしまうことがあります。そのようなことをなくすために、「経過も教えてほしい」とお願いしていますが、やはり最終的には、自分の努力しかないと思います。
また、職場では、「一人でこの仕事をできれば、もう一人前だ」という考え方があるそうですが、私は、一人で一つの仕事をこなしたくても、時間の関係もあって、それができません。子どもはまだ小さくて病気も多く、いつ休むかも分からないからです。そこで、仕事の進捗は「私は今日はここまでやりました」、仕事内容は「このようにやりました」と、毎回、グループの人に伝えてアピールしています。そのうち子どもは大きくなり仕事も他の方々と同じようにこなす日が来ると重い増すし、子どもがいるから出来ないと思われないように周囲の人たちの理解を促進することも会社にとっては必要な課題ではないでしょうか?このあたり、昔からの考えがまだ残っていることがいようですが、これをなくしたいですね。どうしたらいいかを、私もまた考えないと、なかなか会社は変わらないかなと思います。
河口 これも意識の問題ですね。障害への理解によっては、何か逆に、「できないでしょう」とか、「やらせたら悪いわね」という気持ちもあるのだろうけれども、ご本人からすると、それは不満に感じることもある。そのあたりの意識を、どう職場の人と共有していくかというところですね。
では、ハサンさんもお願いします。
ハサン 多分、当社だけではなくて、日本中の会社に該当するかもしれませんが、会社員という定義について考えてほしいです。例えば、大成建設の社員という定義は、もう少し緩和しないといけないと思います。今までは会社に入って、長く働いてきたという人しか社員として認められていませんでした。しかし、今の時代は、生き残るために、あるときのチームが、例えば、その人はその10日間だけしか雇っていないけれども、チームとして100%、みんなで働こう、みんなで成果を出そうという意識を持たなくてはならないと思うのです。
本来、「大成の社員」とは、大成のために成果を出した人、であるべきで、単にずっと大成で働いたということで認めるというのでは、これからの時代、会社として本当に生き残れるのかなと疑問に思っています。
河口 会社に属して努力していること、が評価されて、結果として赤字を出そうが、あまりそれは重要とされていないというお話ですね。これが契約社員の立場なら、ここで黒字を出さなければいけないという、結果がかなり厳しく求められるし、欧米の会社というのは契約社会なので、「で、どういうアウトプットを出したの?」と言われるのに対して、日本は、アウトプットという面もあるけれども、基本的には社員だということだけで、「頑張っているのだから、いいよ」というように見られているところがある。そんなことをしていたら、会社としては生産性がどんどん下がっていってしまうということですね。
続いて甲賀さんはいかがですか。
甲賀 私は確かに、自分で大きな建物を建てたいから入社したのですが、ただそれだけだったら、自己満足の世界で終わってしまいます。あくまでも大成建設の社員なので、やはり利益を出していかなければと思います。特に私は現場の施工管理という最前線で働いている人間で、一番利益を勝ち取ってきやすいポジションにいるわけですから、いつも、そのためにどうしたらいいかを考えています。
今、どんどん施工管理の女性が増えていますけれども、もっといろいろな経験をさせたらと思うのです。私よりも若い世代の話を聞くと、ちょっと優しくされているようにも聞こえてきます。例えば、私は過去に一人で現場を三つ、四つぐらいやったのですけれども、そこで学ぶものはすごく多くて、とにかく何でも自分でやらなくてはいけない。だけれども、自分で手を動かしていると時間がないので、そこで初めて管理の手法をいろいろ勉強するわけですね。女性だから勘弁してもらえるだろうなどということは、そこには全くありませんでした。女性・男性の特性はあるのですけれども、仕事の現場では関係ない部分もある。ただ、「管理しているのは女性なんだから、女性ならではの管理の仕方もあるだろう」と、その当時の上司は言うわけです。それを見つけるのは難しいのですけれども、私は今、女性として、現場で施工管理をするのなら、自分にしかできないやり方で利益が取れたらいいなと思っています。そういった人材育成をお願いしたいなと思っています。
堀之内 人事部としては、多様性の拡大と、時間に制約がある人への尊重・支援。この二つの視点からやっていこうと思っています。
まず、前者の多様性ですが、会社というのは、金太郎アメ的に同じような人ばかりがいても、利益も生産性も上がらないので、これについてはどんどん広げていく方向です。逆に言うと、性差も国籍も、全然意識せず、異動も、あるいは育成もできるような会社を作っていくことが理想です。そして、どんどん多様なものの見方ができる人を育てていく。究極は、そういう人材の存在で、周りの人も、ものの見方なり、時間の使い方なりが変わり、結果的に組織の生産性も上がることです。そうした多様性を尊重した、採用や教育なりをしていこうと思っています。
もう一つ、時間的な制約のある人については、全社的に、時間が有限であるということを啓発しないといけないかなということ。加えて、制約のある人に対する支援、あるいは尊重を制度化していこうと考えています。人事はツール、道具立てはするのですけれども、なかなかそれを利用できないということがあります。では、そのためには何をするかというと、当然、意識を変えることもありますし、環境等を整備する必要もあるのでしょう。さらに重要なことは、実績を積み重ねることだと思っていますので、この両輪を回していきたいですね。
河口 では、塩入さんからコメントをいただいて、それに対して佐藤先生のコメント、最終的なお答えということで、松田役員にお願いしたいと思います。
塩入 意識の問題については一つ、実は先日、今日も手話通訳をしてくれている佐藤さんが主体になって、手話セミナーを実施したのですが、私自身も参加して思ったのは、障害者とコミュニケーションを取りたいと思っていても、うまくいかないので、こちらのほうから引いてしまっている部分があったということです。正確に手話ができないとコミュニケーションが取れないと思い込んでいたところがあった。実際参加してみると、そうじゃないというのが分かりました。今後、その気づきを、積極的に広めていきたいなというように思ったことが一つ。
また、作業所に配属になっている若い女性社員が増えていて、男性と同じように育成していかなければいけない中、やはり結婚・出産後、その働き方を続けられるかという山が一つ来ると思いますので、それまでにいろいろなことを経験させて、本人に、「私はこれができるんだ。この仕事に合うんだ」ということを認識させて、出産後にその中から選択させるというようなことを考えなくてはと考えています。一つのことしかやっていないと、それができないと辞めてしまうことになると思いますので、そうしたことにも取り組んでいきたいな、と思っています。
佐藤 御社は非常によくやられているので、基本的にはこれを続けてほしいということなのですけれども、その上で大事だなと思う点が三つあります。一つは、社員のワーク・ライフ・バランス支援も、ダイバーシティ、マネージメントも、誰が担うのかというと、部下を持った管理職だということです。ただし部下を持った管理職が、特別なことをやる必要はないのです。管理職としてやるべき部下マネージメントを、ちゃんとやってもらうということなのです。
部下マネージメントとは何かと言うと、管理職というのは自分で仕事をするのではなくて、部下に、気持ち良く、意欲的に働いてもらって、その結果として自分に課せられた課題を達成するというのが、本来の管理職の仕事の仕方なのですね。ところが、現状はなかなかそれができなくなってきている。理由はいくつもありますが、プレイング・マネージャー化していて、自分の仕事があって、部下マネージメントに時間が割けないことや、マネージメントの中身が変わってきていることも挙げられます。先ほどの、時間制約のある社員でも意欲的に働けるような時間管理とか、仕事管理をやらなければいけない。自分たちの時代とは違うことをやらなければいけないのです。
そして部下の育成ですね。組織としてレベルアップしていかなければいけないので、部下の育成も大事になります。
最後にコミュニケーションです。このコミュニケーションも昔と違って、仕事だけコミュニケーションを取れていればいいわけではなくて、部下が仕事以外でどのような個人的な事情があるのかということをある程度共有できるようにすることが大事です。これが結構難しい。あまり自分のプライベートをしゃべりたくない。上司も聞いてはいけないと思ってしまう。ただ、それをある程度、やはりお互いが了解しないと、実はワーク・ライフ・バランス支援というのはできないわけです。
こうした部下の育成の話や、コミュニケーションの話といったことを、実は管理職が忙しすぎてやれない状況にあるということなのですね。つまり、管理職自身がワーク・ライフ・バランスを取れていないところもあって、やるべきことをやれないという状況になっている。管理職が部下のマネージメントをきちんとできるような環境整備というのは、やはりすごく大事だと思います。
大事なことの二つめは、ワーク・ライフ・バランス支援についてです。ここで会社がやれることは、社員の時間作りを支援することなんですね。ただしその先の社員一人ひとりが、自分のワーク・ライフ・バランスをどう実現するかというのは、個々人が考えることなのです。ライフデザインについて、会社が勉強しなさいとか、子どもとちゃんと過ごす時間を作ろうとか言うのは、これはある意味でお節介なのです。会社の役割は社員の時間作りを支援するだけで、仕事以外の時間を何に使うのかということは、社員一人ひとりが考えないといけないという意識付けが課題になると思います。これが二つめです。
そして三つめは、ダイバーシティやワーク・ライフ・バランス支援の目的についてなのですけれども、そのことが、会社の業績に結びつくというお話がありました。実は、これはなかなか難しいんですね。社員のワーク・ライフ・バランスが取れたり、ダイバーシティマネージメントができたりすれば会社がもうかるかというのは、極端な話、ウソです。そもそも、会社の経営戦略が間違っていたら、どうしようもないのですから。もちろん、ワーク・ライフ・バランス支援とかダイバーシティマネージメントは、すごく大事です。これらの取り組みは当然、やったほうがいいのです。ただし、それをやれば会社の業績が上がるというと、そうではない。「一生懸命やっても業績が上がらない」ことが生じることもある。実は、それは経営が悪いのです。お話を聞いていて感じました。以上です。
河口 会社にはいろいろな戦略がありますね。人事戦略だとか、マーケティング戦略だとか、営業戦略とかがあって、それに対する係数としてCSRという要素があって、人事戦略の中にある程度、生産的な発想があれば、ダイバーシティだとかということで、より良くなるということなのだと思います。CSRは係数なので、係数をいくら掛けても、他の戦略がゼロだったらだめだということです。なので、戦略がきっちりしていて初めて、CSR的な係数を膨らませることによって、これは、もうかるというよりも、企業価値向上につながると思うのですね。
だから、ダイバーシティができている会社というのは、業績がいいというような、単純化した言い方もありますけれども、それよりは、働き手というステークホルダーにとって魅力的な職場であるということではないかと思います。今まで日本の企業は本業の戦略さえ頑張っていれば良かったけれども、これからはCSRという係数に配慮をすることによって、得をしたり損をしたりすることが出てくる。そのようなことではないかなと思いますね。
では、最後に松田役員、お願いします。
松田 このような形で、当社の現状といいますか、4名の社員の話を聞いていて、それぞれ非常に努力して、苦労されて、今の状況にあるのだな、と感動しています。
今日の話は結局、多様な人、あるいは多様な価値観、そのようなものが世の中にあるんだぞという話ですね。自分自身を振り返れば、先ほど言われました、時間は無限にあるという感覚でやってきた人間ですが、今日のように多様な人、多様な価値観の人がいれば、その時間は制約されるということをチームが認識していかなければいけません。現実にさまざまな社員像があり、そうした方が意欲的に働けるような形を作っていかなければいけないと実感しました。
大成建設グループの理念に、「人がいきいきとする」というのがありますが、私たち社員がいきいきとするということを、まず作りあげていく必要があると思います。事実、行動憲章はそうなっていて、具体的には「安全で働きやすい職場の確保に努める」とともに、「働く人々の多様性・人格・個性を尊重します」と書いてあります。しかし逆に言うと、「尊重します」で止まっているのです。現在はさらにもう一歩、能動的にやる時代なのかなと思います。
私の今の仕事はコンプライアンスの推進でして、取引業者さんに対するコンプライアンス研修もやっていますが、話していることはみんな分かっていることなのですね。知識としては持っているが、意識として持っていない。だから、不祥事が起きる。事件・事故が起きる。このような話をしています。まさに今日の話でも、制度を作っても定着しないという現状の中で、もっと、広く深く定着させるには、やはり意識を持つということが必要なのだと感じました。
今後の業務のやり方、働き方を見直していくとき、今まで当たり前だと思っていたことが、もう当たり前ではなくなってきているという、時代の変化を考えながら対応していく必要があることを一層痛感いたしました。
河口 ありがとうございます。今回は非常におもしろい視点がたくさん出たと思います。毎回この場にお呼びいただいて、非常に多くの勉強させていただいているのですが、ここまで多様性、多様性と言って、実査に多様な人材を社内から出してこられた会社は初めてです。この人的資源をいかに、現場で使うのかということ、また、せっかくの資源なのでブランド戦略などにも活用されたらいいのではと思いました。
これからも取り組みをどんどんブラッシュアップしていって、ベストプラクティスとなっていただきたいなと思います。今日はどうもありがとうございました。
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ダイアログを終って 当社が、ダイバーシティやワーク・ライフ・バランスの推進に対して本格的な取り組みを始めてから、まだ4年しか経っていないのにも係わらず、よく取り組んでいるとの評価をいただいたことは、大変ありがたいことだと思っています。しかしながら、ダイアログの中でも出ましたが、制度を作るのは比較的容易であって、本当に重要な事は、当社のグループ行動指針にもある「多様なものの見方、考え方を尊重する」という意識を社内に定着させることだと思っています。それができて始めて高い評価に値するものだと思います。そのためには、繰り返し会社の固い決意を表明し続けること、あわせて働き方の多様化を尊重しあう風土を作り上げることが必要だと考えています。 |